「極上の美しき冒険譚」シェルタリング・スカイ Shuheiさんの映画レビュー(感想・評価)
極上の美しき冒険譚
久しぶりに最高の映画と出会う事ができた。
圧倒的な映像美。
色使い、カメラワーク、アフリカの大地の妖しくリアルな描写、僕はまさにこの映画のような色彩が世の中で一番好きかもしれない。
2012年にマラケシュのリゾートホテルに長期滞在したことがある。
連日気温40度を越える圧倒的な暑さ、時折起こる砂嵐、新日を装いながら中身はモラルも教養も宗教的敬虔さもなくぼんやりとした薄っぺらな愛しかないモロッコ人達、モロッコは腐った救いようのない国だったという記憶が、この映画の描写と共にリアルに蘇るようだった。念のため言うが、もちろん愛に溢れた人間もいて、旅行はとても最高な思い出である。あの退廃的で過酷な環境がアフリカの魅力でもあるのだと思う。
夫婦関係を新鮮なものにするために、環境をガラッと変えることにより、愛が新鮮化することを求めた2人。お互い愛しあいたいという感情を確かに持っていたのだ。
男は直ぐに現地の女を買い、女は周期的にくる生物学的性衝動にマッチするタイミングでモテ男と関係を持ってしまう。腸チフスでの死の直後、ラクダの民の権力者に寝取られ、性の奴隷化されるがその男に刹那的な愛を持つこともできる。
男の愛はフォルダー分け、女の愛は上書き保存。この男女差をリアルに描写したように感じた。
ナチス思想の奇しいイギリス人親子もこの冒険にスパイスを与えてくれる。旅行中ってこういう白人いるいる感が半端ない。
例えば一人暮らしの皆さん、実家の親と話すこと、永遠に続くことができると思うが、人生であと何回あるのだろう、せいぜい100回くらいじゃないか。満月を見るのはせいぜいあと20回くらいじゃないか。日々当たり前にある事象を享受し、感謝し、過去や未来に囚われるばかりでなく、今を大切に生きる。グランドホテルの老人はそんなことを教えてくれる、ベルトリッチの分身であることは明らかである。