「日の沈むところに巣食うものの物語。 自分とは何者なのか。」サンセット大通り とみいじょんさんの映画レビュー(感想・評価)
日の沈むところに巣食うものの物語。 自分とは何者なのか。
サンセット大通り。ロサンゼルスに実在する道路。
さぞかし、陽が沈みゆく風景は明媚であろう。
しかも、ハリウッドをはじめとする芸術産業地帯を通るとか。華やかなイメージ。
そんな通りをタイトルとした映画。
『ようこそ、革命シネマへ』で、映画クリエイターたちが、嬉々として真似をしていた映画。
さぞかし、心躍る名画なのだろうと、鑑賞。
こんな映画だったとは…。
『妖怪人間ベム』のイントロが聞こえてくるようだ…。「早く、○○になりたい」と。
ファンの期待に応え、自分を主役とした映画を創作したい女。
脚本家として、映画を創作したい男。
ほころびかけている自分だけの夢の世界を、必死に創作し続ける男。
創り出す喜びを手放せば、違う幸せも見えてくるだろうに。
贅沢し放題。だが、それだけでは満たされぬ心。
万人からの「いいね」を欲し、愛し方を知らぬ女。
支配・所有ー被支配・被所有。
まるで息するコレクション…。
かっての自分にとらわれた女。
自分の立場をもかなぐり捨てても、自分の夢を守り通したい男。
夢を巡って、自分の生き方に迷う男。
夢にまっすぐな瞳に照り返される自分の姿。あえて眠らせていた志がうずきだし…。
そして…。
Wikiや、いろいろなレビューを拝見すると、まるでドキュメントにもなりえるようなキャスティングだとか。その役柄を嬉々として演じる役者たち(「蝋人形」と称される人物をまことしやかに”蝋人形”らしく演じるとか)。
また、映画の中に出てくる映画の企画『サロメ』とも、幾重にも重なるプロット・演出。
ノーマがマックスをどう思っているのか、どういう経緯でこのような境遇にマックスがなったのかの説明はない。ないにもかかわらず、たった一言の説明と映画全般の演技で、二人の関係性と境遇が納得できてしまう。
圧巻…。
もどかしさ。あはれ。世間と断絶された空虚感・焦り…。みじめさ。怒り。
何かをしたい。それによって、世界とつながりたい。承認を得たい。
ただ、時間を費やすのではなく。
湧き上がって千々に乱れるその情熱。どこにぶつければいいのか。
様々な感情に揺さぶられる。
お金があっても、制約(口出し)が多すぎて駄作となる映画。…皮肉?
重苦しいだけでなく、そんなシニカルな(笑)も散りばめられている。
だが、それだけではない。
意表を突くフィナーレ。
このシーンだけでも、ものすごいシーンを鑑賞した気になり、お腹一杯。息を飲む。
だが、映画を通して、このフィナーレを鑑賞するとき、忘れたくとも忘れられぬものになる。
《蛇足》
『蜘蛛女のキス』でブラガさん演じる、モリーナが語る映画の中の女優の佇まい・所作のモデルって、この映画のノーマ?