劇場公開日 1936年

「ヒッチコック初期の傑作を鑑賞」三十九夜 ryoさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0 ヒッチコック初期の傑作を鑑賞

2025年11月15日
PCから投稿

今観てもまったく古びていない。むしろ、ヒッチコックの演出術が最も“軽やかに”機能していた時期の作品だと再確認できた。まだサスペンスの巨匠としての威厳を身につける前で、肩に力が入っていないからなのか、新鮮さを随所に感じさせる。

誤ってスパイ事件に巻き込まれた主人公が、濡れ衣を晴らすために逃走劇を繰り広げるという構図は、後年の『北北西に進路を取れ』にも通じる“巻き込まれ型サスペンス”の原型だが、特筆すべきはヒッチコックの初期作にありがちな演技の硬さもここではほとんど気にならないこと。

90年近く前の作品にもかかわらず、現代の観客にも通用する。この時期からすでにヒッチコックは、「観客の視線をどこへ導くべきか」を完全に理解していたのだと改めて感じた。サスペンス映画の源流として、今観ても十分に刺激的な名作だ。

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ryo