劇場公開日 2023年7月28日

  • 予告編を見る

「「国宝」効果」さらば、わが愛 覇王別姫 naokiさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0 「国宝」効果

2025年8月20日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

悲しい

驚く

この作品と比較される「国宝」のレヴューで映画の存在を知りました。うまい具合にリバイバル上映していただき、やっと観る事ができました。
見終わった後しばらく席から立つ事のできない程の衝撃でした。こんな激しい恋が、あるだろうか!?激動の時代に翻弄されながら京劇が繰り広げられます。

V・シュレンドルフ「ブリキの太鼓」に似た構成でワイマール共和国から戦後ドイツ🇩🇪の歴史が分かるように本作品は西太后から共産党までの支配が西暦とテロップ付きで分かり安く説明してくれます。あぁ今、京劇を観ている兵士は国民党か・・・なんて勉強になります。それにしても昔は格差社会どこか貧富の差が激しく子供が売られたり捨てられたりしたのでしょう。ほぼシゴキに近い養成所で苦労して芸を磨いたのにお金持ちや権力者に、いいように扱われしまう。今問題になってるme too運動や芸能事務所、TV局、歌劇団の問題にも当てはまってしまい、おいおい歴史だけ動いて人間が進化していないぞ。

話かわって国民党が紫禁城から持ち出したお宝に白菜の翡翠があるのですが超絶技巧の技で丁寧に彫り出してあります。皇帝お抱えの工芸家は「お前これ作れ!」と命令されれば完璧を目指さないといけない、もしできない場合は死刑なんて・・・なんて事があったのでしょうか?女形の蝶衣がセリフを間違えると罰を受けるのとリンクします。
皇帝由来の美術や芸能は完璧ゆえに厳しいですね。山水画でも精緻に、くっきりと描いてあります。

この映画は美術のキラキラ感が時代が進むにつれ色褪せていきます。京劇がもてはやれていた時代は街が輝いてるように見えましたが、それが軽んじられる(贅沢だという批判)と街に潤いが無くなっていきます。
後半は蝶衣と小樓それぞれの仕事や生活での軋轢や堕落が、たっぷり描かれ見ていて苦しくなります。まぁ人間だからしょうがないよね。

袁先生みたいに興行に顔の効くフィクサーみたいな方ていたんだろうなぁ。しかし、どんな権力者も時代の渦に巻き込まれていく無常感も描ききっています。
京劇の師匠の「運命は決まっておる」というお言葉が始まりと終盤あたりに反復されます。

蝶衣の弟子で小四が入ってくるんですが、どちらも女形で化粧すると、どっちがどっちなのか分からなくなるんですよね、
まだ「国宝」では女形の吉沢くんと流星くんの違いは分かります。

文化大革命の吊し上げは中世で言えば異端審問に当たり今で言えばSNSの誹謗中傷ぐらいつらいシーンでした。

菊仙も家族の一員になりそうだったのに一番この人が被害被ってます。

袁先生の邸宅にある籠の中の鳥は芸能という籠に捕らわれた蝶衣と小樓の運命を象徴しているようにも思われます。

naoki
PR U-NEXTで本編を観る