劇場公開日 2023年7月28日

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「172分は長いと思うはずが、長さを感じなかった」さらば、わが愛 覇王別姫 yukarinさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0172分は長いと思うはずが、長さを感じなかった

2023年8月5日
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鑑賞方法:映画館

劇場ではないが、一度観ているはずの作品
ただ、あまり印象に残っていない
だから、今回、再上映を知ったものの、最初は素通りした
けれど、なにかが引っかかって、劇場に足を運んだ

素通りしたままにしなくてよかったと本当に思う

エンドロールが終わると、すぐに立つ方なのだが、今回はしばらくスクリーンから目が離せなかった
最初から最後まで、引き込まれるように観ていた気がする

選んだ人生ではなかった
与えられた、というより、むしろ押し付けられた人生だったのではないだろうか
それでも、生き残り、掴み取った人生

そこに、中国の激動の時代までもが襲いかかってくる
時代に翻弄され、生き残るために選ぶ道が、人によってはのちに仇になって返ってくる
それほど価値観が次々と一変するような難しい時代

その中で、レスリーチャン演じる蝶衣が放つ存在感
子供時代の役者も素晴らしかったが、レスリーチャンの演技の素晴らしさにとにかく引き込まれる
彼が背負い続ける悲哀、ただそこには強さもある
その一見すると相反する印象が、このキャラクターをさらに際立たせる

ラストシーンの選択は、そんな蝶衣だからこその選択であり、舞台と現実の区別がつかないと言われた蝶衣の演じた虞姫、最初の方で語られた覇王別姫のストーリーを思い出させるものだった

文革はどうしても理解できないし、失われたものや人を考えれば、なぜこんなことが起きてしまったのかと思わずにはいられない歴史のひとつ
一部の人間たちの思惑でここまで民衆が動いてしまう恐ろしさ、集団化した人々の恐ろしさをまざまざと見せられる
そして、追い込まれた小樓が吐露する過去、どこまで本音かわからない思い
それにより、蝶衣も言葉にまではしなかった思いや過去を暴露する
そうして、菊仙もまた追い込まれた
普段は隠すことができる、自覚すらしていないかもしれない人の弱さや醜さを吐き出させる
こんなことが必要だったのだろうか
言わずとも、聞かずともよかったはずの言葉たち
文革の残した傷跡は、目に見えるものだけではなく、人の心にも及んでいる

小豆が預けられた直後、母を呼びながら振り返った時にはすでにその姿はなく、雪のちらつく寒風だけがその扉の向こうにある
それほどあっさり子を手放した母を蝶衣はどこかで忘れない
満たされないなにかを、彼はずっと抱えたまま、時に阿片に溺れ、それでも自分の力で、脚で、生き続けた
その強さと弱さが、観終わったあとも、どうしても胸を突いてくる

レスリーチャンの選んだ最期が、なぜかここに重なって、なんともやり切れない気持ちになる
彼の演技の放つ存在感に、その悲哀があるとは思いたくないけれど

yukarin
yukarinさんのコメント
2023年8月8日

talismanさん、ありがとうございます!観た後、いろんな気持ちが溢れて、私自身もどこか泣きそうな気持ちで書いていたので、とてもうれしいお言葉です。

yukarin
talismanさんのコメント
2023年8月7日

yukarinさんのレビューにとても共感しました(泣きました)。

talisman