「レスリー・チャンの全ての仕草に魅了される172分」さらば、わが愛 覇王別姫 清藤秀人さんの映画レビュー(感想・評価)
レスリー・チャンの全ての仕草に魅了される172分
今回の4K版には、公開30周年、レスリー・チャン没後20年という副題が付いている。それは実に理に適っていて、時代に翻弄されても、演じることへの情熱と、最愛の相方に対する変わらぬ思いを体全体、目線、仕草、台詞、笑顔、憂い、涙で表現するチャンには、改めて魅了される。30年前の公開時、自分はいったい何を見ていたのか?という気持ちになるほどだ。それだけ、中国の激動期を生き抜き、散っていく京劇俳優の蝶衣を演じるチャンの、魂を投入したのような熱演には、独特の美しさと儚さと、凄みがあるのだ。
蝶衣と相方、小楼を通して描く、日中戦争から文化革命へと流れていく中国のリアルな現代史には、文化革命当時に多感な少年時代を過ごした監督、チェン・カイコー自身の体験が投影されているとか。そんな監督の創作意欲を全て映像に結実させるには、172分の上映時間は短いという意見もある。しかし、改めて見てみると、展開はスピーディで、かと言って短すぎるとも、端折っているとも感じさせない。これは、演出と演技に加えて、編集のペイ・シャオナンが的確な仕事をしているからだと思う。
中国でアートシネマが自由に作れていた時代を代表するチェン・カイコー渾身の歴史絵巻は、映画の尺についても改めて考えさせられる傑作だ。
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