劇場公開日 2023年7月28日

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「男として生を受け・・・」さらば、わが愛 覇王別姫 talismanさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0男として生を受け・・・

2020年9月2日
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鑑賞方法:映画館、VOD

泣ける

悲しい

怖い

見にいってよかった。昨年、映画館で見たのより映像も音もクリアで、昨年も配信でも見た記憶がないシーンがあったのでやっと全部を見ることができたように思う。戦争、内乱、芸術、貧しさ、美、天地のひっくり返しをもたらす革命と権力と思想。蝶衣と菊仙の嫉妬と憎しみと駆け引きの激しさと苦しさをレスリー・チャンとコン・リーが命を輝かせて演じた。何度見ても涙する。(2023.08.04.)

映画館で見ることができるとは夢にも思っていなかった。鏡の使い方が素晴らしいことに気がついた。レスリー・チャンとコン・リーの演技に心打たれた。演劇「M.バタフライ」を見る心の準備もできた。レスリー・チャンの不在が悲しい。(2022.6.3.)

レスリー・チャンの演技があまりに素晴らしくて胸が痛い。子どもの時、少し大きくなって、そして大人になって、きっかけは色々で、涙が一筋(または沢山)こぼれる場面が美しい。それから血。手の指から流れでる血、その血で判を押す、台詞を間違えた小豆を滂沱の涙を流して石頭がわざと折檻する、口から血を流して今度は完璧に演じる小豆、手の平の血で唇を拭う蝶衣、法廷で指で判をおし赤くなった手で唇を拭う。蝶衣にはいつも赤がつきまとう。赤い金魚もそう。蝶衣の部屋の金魚柄の薄布、金魚鉢の中を泳ぐ金魚。全部、蝶衣みたい。金魚は中国だなと思った。でも、文化大革命の赤色は蝶衣の色じゃない。荻原浩の小説『金魚姫』を思い出した。

習慣なんだろうか。背中から長衣をかけてあげるシーンが沢山ある。親愛の情を示す行為なのかな。久しぶりに見て、菊仙の孤独と絶望がわかってきた。蝶衣の母親も菊仙も同じ境遇、自分が京劇の役者になったのも石頭と出会ったのもそもそもは母親ゆえ。運命から人は逃れられないのか。(2020.11.23)

大柄で背の高い石頭の横に立つ小柄な蝶衣。その佇まいが映画の最初と最後におかれている。そのシーンがすべてを語っていた。蝶衣が愛らしくて涙が出る。

蝶衣は男性の装いの時も、足さばき、立ち止まる、振り返る、寄り添う、発声と話し方、笑顔、眼差し、師匠の前にひざまずいた時の足が正座重なりをしているなどすべての身のこなしが(一昔前の)歌舞伎の女形の役者さんと同じ。こんなこと稽古無しに一朝一夕にできる訳がない。衣装と鬘をつけて顔を作って照明を浴びた舞台の上の姿は美しく、嫋々とした、という言葉は蝶衣の為にあるとしか思えない。レスリー、天才だと思う。

あまりに蝶衣に感情移入してしまったので、菊仙憎し!になってしまった。前の方の席に座っておいて芝居が終わらないのに途中で帰る菊仙ダメ!お行儀も悪い!海千山千の菊仙は計算づくの芝居じみた言動をして嘘をつき、何度も石頭を蝶衣を、沢山の人を騙した(コン・リーが上手い役者だからこそ)。でもそんなこと、最初から蝶衣にはお見通しだった。苦界から抜けたい彼女の思いはわかる。けれど母からやむなく捨てられ折檻に耐えながら居場所がそこしかない所で歯を食いしばってきた男の子が、体をはって涙を流して守ってくれた石頭と離れられる訳がない。蝶衣が阿片中毒から立ち直るために苦しんでいた時に抱きしめてくれた菊仙は、でもその時だけは蝶衣の母だったかも知れない。

蝶衣は芯が通っている。法廷で嘘をつかなかった。日本軍は自分の体に指一本触れなかった、青木が生きていれば京劇を必ずや日本に持って行ったはずだと述べた。日本人は京劇の素晴らしさと美しさをわかっていると、歌い踊りなから蝶衣は感じたからだ。それに、大嫌いな菊仙の入れ知恵を諾々と受け入れたら菊仙に借りができる。蝶衣はいつも筋が通っている。

宦官であった爺さんの目にとまってしまった小豆が、布にくるまれて担がれて運ばれる場面。小説で読んだような気がする。若く美しい女性が殿様(?)みたいな人の所に運ばれた時もそんな風だった。そういう運搬方式が中国の習慣だったのかな?
スターになった石頭と蝶衣がスーツ姿で写真館で撮影。その後それぞれが人力車に乗っている場面で、蝶衣には赤い日傘をさしかける人がついていた。乳母日傘!歌舞伎では男も女形も顔は全部自分で作るけれど、京劇では男の隈取りは女形が描いてあげるのか。通常の演出では7歩の所が君は5歩だったねと、京劇の大御所が石頭に言う場面。歌舞伎好きもそういう話をよくする。京劇にはカーテンコールがあるんだ!

中国はこれからどこに行くんだろう?あれだけ芳醇な文化と芸術と歴史をもった国。

talisman
2023年11月16日

そうですね。でも、僕は日本がどこへ行くのか心配です。もっとも、僕の人生はもうすぐ終わりますけど、団塊の世代が消えたあと、7500万人位になった日本がどうなってしまうか凄く心配です。

アンドロイド爺さん♥️
カールⅢ世さんのコメント
2023年8月9日

肩車しながら泣くシーンですね。役者への憧れと決意。それでもどったら・・・

カールⅢ世
CSさんのコメント
2023年8月5日

多層的で簡単にまとめられない作品ですね。
わたしには日本兵が乱入してくる舞台のシーンが印象的です。
芸芸術の異次元の世界が映画的に描かれたすごいシーンと思います。
その後の2人の行動、日本兵でもしなかったと石頭が言ってしまったり、法廷での蝶衣の証言の納得感なども、あのシーンか素晴らしいことに支えられていると感じます。

CS
Sakikoさんのコメント
2023年8月4日

歯を食いしばって生きているのが伝わって来ました。映画も素晴らしいし、演者も素晴らしい!

Sakiko
とみいじょんさんのコメント
2020年12月1日

お返事ありがとうございました。
同感です。

とみいじょん
とみいじょんさんのコメント
2020年11月27日

お返事ありがとうございました。

レスリー氏繋がりなら、『ブエノスアイレス』も強烈です。
よろしければ。

とみいじょん
とみいじょんさんのコメント
2020年11月26日

コメントありがとうございました。

細部を見過ごしてしまいそうになるところを教えていただいて、また、感動が深くなりました。

そして、「蝶衣は芯が通っている」 ここがこの映画の肝ですよね!
 でないと、ただの長い時代絵巻になってしまいますが、蝶衣の存在で、他に代えがたい映画になったと思います。
 思い出してうっとりし、涙が出てきて、でも、背筋を伸ばして生きていこうと思いました。

とみいじょん
とみいじょんさんのコメント
2020年11月25日

レビューへのコメントありがとうございます。
過分な評価をいただき、恥ずかしくもうれしかったです。

talismanさんのレビューも、私にはない感性に満ち溢れていて、刺激されました。
 蝶衣と菊仙の色遣いの違いには気が付きましたが、蝶衣の赤が血とは!すごくしっくりきました。蝶衣が目の前に立ち現れたように、思えました。

本当に、レスリー・チャン氏は稀代の名優でしたね。
なぜか、レスリー氏の人生と、蝶衣と人生が重なって見えてしまって…。
もっと、観ていたかったです。

では、これからもレビューを楽しみにしています。

とみいじょん
kossyさんのコメント
2020年9月3日

チェン・カイコーは苦手監督の一人ですが、この作品と『北京バイオリン』は良かったなぁ~

kossy
MAKOさんのコメント
2020年9月3日

違った。そもそもチェン・カイコーの映画だった。勘違いすんません。でも観たのは本当ですよ^^;

MAKO
MAKOさんのコメント
2020年9月3日

これは自分も観ましたが、残念ながらこのレビューほど深く入っては来ませんでした。けど映像は流石のクリストファー・ドイル。素晴らしかったのは憶えてます。

MAKO
きりんさんのコメント
2020年9月2日

生い立ち+愛憎+激動の時代
ドラマの必要要素は全て揃ってましたね‼️
レスリー・チャン長生きしてもらいたかった。

きりん