「仕方のない犠牲だ そう頷いたとき、私たちはテロリストに屈したことになるのです」コラテラル・ダメージ あき240さんの映画レビュー(感想・評価)
仕方のない犠牲だ そう頷いたとき、私たちはテロリストに屈したことになるのです
コラテラルダメージとは
もともとは軍事用語からきた言葉だそうです
「仕方のない犠牲」という台詞が劇中にあります
軍が敵を攻撃するとき、その周囲にある民間人や民間施設に被害がでるときその言葉が用いられるということです
「解放軍」の理解者という人物がテレビのインタビューでそのワードを使います
最近このワードをよく耳にします
ウクライナ戦争で、ロシアがこのワードを頻繁に使うのです
曰わく「軍事目標を攻撃して民間人にも死傷者がでたが、作戦上仕方のない犠牲だ」と
劇中のシュワルツェネッガーよろしく、ロシア軍司令部に殴り込みに行きたくなります
本作の公開は米国は2002年2月
当初の予定は2001年10月5日だったそうです
なぜ延期になったのでしょうか?
もちろん911が公開直前に発生したからです
本作は殆ど911を予告しています
なぜテロが起きるのかそのメカニズムまで解き明かしています
そしてそのテロは遠い外国で起きるのではなく、いつアメリカ国内で起きてもおかしくないのだという内容なのです
そのテロとは爆弾による単なる無差別殺人に止まらず、ついには政府の中枢にピンポイントで攻撃を仕掛けて来るだろうというものです
国務省ビルへの攻撃は、911ではペンタゴンへの攻撃でそのまま現実になっているのです
しかも主人公は消防隊の隊長
911で必死に奮闘して英雄とたたえられたプロフェッショナルなのです
本作の劇場公開が3週間前に迫り、そろそろ試写会や予告編のプロモーションが始まろうという矢先に911が起こったのです
本作の内容はあまりにも911を連想させる内容そのものです
監督も撮影スタッフも、シュワルツェネッガーはじめ出演者一同も、何より映画会社も腰を抜かした事と思います
とても公開できません
日本でも311の東日本大震災のあとしばらくは津波の映像が含まれる作品は上映も放映も自粛に追い込まれました
本作も、爆弾テロシーンをマイルドな映像表現になるように手を入れるなどして、お蔵入りになるのをなんとか回避して、やっとのことで4ヵ月の延期ながら公開にこぎつけたのです
日本なら無理だったと思います
そのままお蔵入りになったでしょう
幻の作品となって数年後にDVD で発売できればマシな方でしょう
主演がシュワルツェネッガーなのですから、主人公が武器を持たない消防士であっても、そんなアホなというぐらいの超人的な活躍をしてテロリストどもをぶちのめすのは当然です
これはもちろん娯楽を求めて彼のアクションを観にくる観客へのお約束です
しかし監督が撮ろうとしたのは、そんな凡百のアクション映画ではなく、米国を本格的なテロリストが攻撃を仕掛けてくるのはもうすぐだ
なぜ攻撃してくるのか?
どのような連中なのか?
当局の対応はどうなのか?
それを描くことが本作の目的であり、
テーマなのです
つまりシュワルツェネッガーのアクションは、苦い薬を飲むための甘い糖衣に過ぎないのです
そこのところを理解して本作を見ないとならないと思います
もし本作が911の前に公開されていたなら?
序盤の爆弾テロはもっと生々しくショッキングなものであったろうと思います
本当かどうか分かりませんが、ハイジャックシーンまであったそうです
神映画になっていたかも知れません
しかし、これもまた映画の神様のご意志だったのでしょう
テロで殺されても、仕方のない犠牲?
民間人が戦争で、殺されても仕方のない犠牲?
経済的困窮者を大勢つくりだしている宗教団体に協力していた大物政治家なのだから暗殺されても、仕方のない犠牲?
仕方のない犠牲なんか
ありはしません
爆弾テロも、銃撃テロも、テロと同義のような侵略戦争も
それを起こしたテロリストにとっては、被害者を全部仕方のない犠牲だと一言で片付けるのです
仕方のない犠牲だ
そう頷いたとき、私たちがテロリストに屈したことになるのです