ソードフィッシュ : 特集
2001年、VFX映画業界大変貌
VFXにはちょっとウルサイ映画評論家、大口孝之氏が、今、大きく変わりつつあるVFXワールドをリポートする大特集! 今回はいよいよ最終回、真打ち、ドリームワークスの登場だ。そして、2002年のVFX映画界はどうなるのか?
第5回:2002年、ハリウッドのVFX事情はどうなる?
大口孝之
■■■■■ドリームワークスは絶好調!
今一つのディズニーに対し、ライバルのドリームワークスはフル3DCG映画「シュレック」の大ヒットで勢いづいている。ドリームワークスの3DCG製作を請け負っているのは、パロアルトにあるパシフィック・データ・イメージズ(PDI)だ。PDIは、カール・ローゼンダールがスタンフォード大学を卒業してすぐの80年に、わずかな資金で設立した会社。そして83年に6人のメンバーでインディペンデントなCGプロダクションとして、パロアルトで活動を始めた。ピクサ―・アニメーション・スタジオに対抗できるCGスタジオを求めていたドリームワークスは、PDIの技術に注目し、96年に40%の株を取得して傘下に収め、「アンツ」(98)を製作させた。さらに2000年2月からは、ドリームワークスの出資比率も増えて、社名をPDI/ドリームワークスと改めている。
PDI/ドリームワークスの素晴らしい点は、85年以来、自主製作の短編作品を数多く作り続けてきたことだ。これはアニメーターやディレクターのスキルアップ、ソフトウェア開発の促進に役立てるためのもので、どんなに経営が危なくなろうとも、逆に仕事が忙しくなろうとも、この姿勢だけはかたくなに変えなかった。このおかげで同社は、CG技術で世界のトップに立ち、高度な演出力も身に付けたのだ。
現在は、フル3DCG映画第3弾の「Madagascar」(エリック・ダーネル監督)や、「シュレック2」(アンドリュー・アダムソン/ビッキー・ジェンソン監督)、「シュレック」のIMAX-3Dバージョンなども製作されている。だが本来、長編第3弾として予定されていた、象を主人公とする「Tusker」(ティム・ジョンソン監督)は、製作が中断している。
また2Dのアニメーションを製作しているドリームワークス・フィーチャー・アニメーションは、「エル・ドラド/黄金の都」(00)の不調で継続が危ぶまれていたが、馬をテーマとした「Spirit : Stallion of the Cimarron」も来年5月に公開が決定した。「エル・ドラド~」で開発された、水飛沫をリアルに描くCGテクニック“スプリティクル”を、より洗練させて激流などを描写している。ドリームワークス・フィーチャー・アニメーションは、95年にロスアンゼルスのグレンデールに建てられたアニメーション専用スタジオだが、現在ここに隣接させて新しいデジタルスタジオの建設も進められている。また日本のアニメスタジオで製作する計画も進められている。
■■■■■ブルースカイ・スタジオは20世紀フォックスの傘下に
最近、元気のあるのが3DCG作品ばかりなので、「2Dアニメはもう駄目だ」という論調の記事を多く見かける。これは極めて短絡的な判断と言わざる得ないだろう。観客は3Dか2Dかで作品を選んでいるのではない。あくまで映画として面白いかどうかだけの問題なのだ。脚本や演出に力が無ければ、どんな手法でもヒット作は作れないのだ。
しかし、ハッキリと2Dアニメーションを見限ってしまったのが、20世紀フォックス映画だ。94年、アリゾナ州のフェニックスにフォックス・アニメーション・スタジオを設立し、「アナスタシア」(97)や「タイタンA.E.」(00)などを製作した。だが、興行成績はパッとせず、2000年6月にスタジオは閉鎖された。
現在20世紀フォックスは、アニメーション事業を3DCGだけに絞っている。3DCGを製作しているのは、ニューヨークのブルースカイ・スタジオだ。ブルースカイは、元々独立した歴史のあるCGスタジオだったが、97年に20世紀フォックスに買収され、同じく買収されたVIFX社と合併させられ、ブルースカイ/VIFXと命名された。だが99年になって、旧VIFXがリズム&ヒューズ・スタジオに売却されブルースカイが単独で20世紀フォックスの子会社となった。現在ブルースカイは、新たに多くのスタッフを集めて同社初のフル3DCG映画「アイス・エイジ」の製作を行っている。
■■■■■マネックスは分裂状態!
「奇蹟の輝き」(98)と「マトリックス」(99)で、2年連続してアカデミー賞・視覚効果賞を受賞し、世界的に注目されたマネックス・ビジュアル・エフェクト(MVFX)は、経済的理由により分裂状態にある。どうも、資本参加していたワーナー・ブラザース映画との関係がこじれたことが原因らしい。主なスタッフは、同じ敷地(サンフランシスコ近郊のアラメダ)にエスケープ・エンターテインメントを設立した。現在同社は、「マトリックス」の続編である「The Matrix Reloaded」の製作に入っている。
■■■■■ティペット・スタジオはティペットの初監督作に着手!
「エボリューション」と「キャッツ&ドッグス」を手掛けたティペット・スタジオは、現在「ブレイド」(98)の続編である「Blade 2」(02)に参加している。そして同社社長のフィル・ティペットの初監督作品となる「Ring World」の準備にも入っている。「Ring World」はラリー・ニーブン原作のハードSFで、恒星の周囲を取り巻く半径9500万マイル、地球の300万倍の表面積を持つ、リボン状のリングからなる巨大人工天体を舞台にした作品である。完成すれば、映画史上最大のスケールを持った作品になることだろう。ぜひとも実現させて欲しいものだ。
■■■■■スタン・ウィンストン・スタジオは「禁断の惑星」をリメイク?
また、今年「A.I.」「パール・ハーバー」「ジュラシック・パーク III」などを手掛け、造形プロダクションとして最も勢いのあるスタン・ウィンストン・スタジオは、現在「禁断の惑星」(56)のリメイクの準備に入った。この企画は、何度も浮上しては消えることを繰り返しているが、今度こそ実現させて欲しい。
■■■■■アトラクション映像界に大異変あり
また劇映画とは直接関係ないが、テーマパークなどのアトラクション映像の分野ではこの9月、非常に大きな動きがあった。カナダのシミュレーション・ライド・メーカーのシメックス・エンターテインメント社が、アトラクション映像総合メーカーであるアイワークス・エンターテインメント社の株を取得して合併し、シメックス/アイワークス社が誕生したのだ。
■■■■■業界再編にスタッフは慣れた。問題は「企画」だ
このようにCG/VFX業界は揺れつつある。それに伴い、大きなスタッフの移動もあるだろう。ただし、この不安定さは業界の特徴であって、スタッフたち
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