ソードフィッシュ : 特集
2001年、VFX映画業界大変貌
VFX映画に造詣の深い映画評論家、大口孝之氏が激筆! 最新映像技術の実際と、それを可能にしたスタッフを中心に、今、大きく変わりつつあるVFXワールドを連載大特集! 第1回、第2回はまず、この秋日本公開の話題作をVFXの観点から総チェック。VFXの現状を把握しておこう。そして、第3回からは、2001年のVFX映画界の勢力図を一望。スタジオごとに、現状と今後の展開を追う。
第1回:「ソードフィッシュ」のVFXが熱い!
「ソードフィッシュ」冒頭に登場!
「マトリックス」の進化型映像はこうして作られた
大口孝之
この秋の公開作で、まずVFXを効果的に使った作品といえば、ドミニク・セナ監督、ジョン・トラボルタ主演の「ソードフィッシュ」だ。LAの街中を車で走行しながらの銃撃戦や、大型のバスをヘリコプターで吊り上げ高層ビル街上空を輸送するシーンなどに、CGやデジタル合成が多用されている。
が、何と言ってもスゴイのは、リアルタイムでは1.5秒間の爆発を、30秒でじっくり見せる驚愕シーン。人質の身体が爆破され、銀行の前の交差点に並ぶパトカーやSWAT隊員を一瞬にして吹き飛ばしてしまうシーンなのだが、このとき、カメラは200度の弧を描きながら交差点を横断していき、その間に、1台のパトカーの車内と、銀行の対面にあるコーヒーショップの店内を通過してみせる。そう、スルドいファンならお気づきの通り、あの「マトリックス」の“ブレットタイム(マシンガン撮影)”の応用、進化型映像なのだ。この場面にはさまざまな技術が駆使されている。
まず、VFXスーパーバイザーのボイド・シャーミスは、CGで精密なプレビジュアライゼーション(シーンのシミュレーション)を作成した。カメラの位置や、次々と起こるイベント(跳ね飛ばされる車やスタントマン、割れるガラスなど)の仕掛けの配置を、撮影区画を2分の1インチ(1.27センチ)角に区切って設計。しかも、それを100分の1秒単位という精密さで設定したのだ。
しかし、この設定は、現実の撮影では実現不可能だ。もしスタントマンのアクションが50分の1秒遅れただけでも、フレームから外れてしまう。そこで撮影は、背景プレート、爆発、跳ね上がるパトカー、吹き飛ばされる12~15人のSWAT隊員などの素材を、別々に、同一のカメラ軌道で撮影することになった。このため、撮影だけで数日間に及んだ。
また、“ブレットタイム”的映像も簡単には作れない。まず、リール・エフェクツ社の“マルチカム・システム”で撮影。これは、1本の鉄パイプ上に並べた35ミリ・スチールカメラ(キャノンEOS)の列(カメラアレイ)を、コンピュータでコントロールするもの。
これらのカメラのシャッターを時間差で切り、その静止画像を繋げて、擬似的な高速度撮影を表現するシステムだ。今回は134台のカメラを使用して撮影された。
しかも、これだけでは滑らかな映像にはならない。それぞれのカメラには微妙に位置の誤差があり、各フィルムの色にもバラつきがあるからだ。そのためすべてのフィルムは、カナダのフランティック・フィルムズ社に送られ、スキャナーでデジタルデータ化され、スタビライズ(安定化)やカラーコレクション(色彩調整)などの処置が行われた。
さらに、これだけでは5秒半の映像にしかならない。映画は1秒で24コマだが、使ったカメラの台数と同じ134コマしか画像はないからだ。そこで、コマとコマの間を補間するヴァーチャル画像が、コンピュータで生成(モーション・エスティメーション)された。30秒のシーンのために、何と全部で600コマ分の映像が作られたのだ。そして最終的に、先述の個別に撮影した素材を組み合わせ、さらに飛び散る車の破片や、ガラス、ボールベアリングなどをCGで追加して、やっとひとつの画面ができあがった。
このようにたった1カットのために、大変な時間と労力が費やされている。結果は非常に強烈な印象を与えるものとなり、少々観客に飽きられ始めていた“ブレットタイム”風効果に、新しい生命を与えるものとなった。VFXの現在を知るためにも必見シーンのひとつと言えるだろう。
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