「洗練され完成された映像美と物語」紅夢 バラージさんの映画レビュー(感想・評価)
洗練され完成された映像美と物語
チャン・イーモウのデビュー作『紅いコーリャン』以来の単独監督作で、台湾のホウ・シャオシェンが製作総指揮を務め、香港や日本のスタッフも参加するなど、国境を越えたコラボレーションが進み始めていた当時の状況が懐かしい。
物語としては後宮もの(日本で言う大奥もの)の構造に近いが、その手の映画やドラマがどれだけ質が高くともエンタメ的な通俗描写から逃れられていないものがほとんどなのに対して、本作の人物描写や物語展開は非常にリアルでそれらとは次元の違う優れた文芸作となっている。『紅いコーリャン』から『菊豆』を経て作風が格段に洗練されており、その分『紅いコーリャン』の荒々しいまでのワイルドさは失われてしまったものの、この4作目にしてチャン・イーモウは1つの到達点に達したとも言えるだろう。『菊豆』同様に封建的な因襲に押し潰されていく女性を描いており、爆発力が外側に炸裂する『紅いコーリャン』と違って圧力が内へ内へと向かっていく。それだけに『紅いコーリャン』ほどの衝撃や破壊力はないものの、恐ろしいまでの完成度だ。
コン・リーをこれまでになくはっきりと映画の中心に据えた作品でもあり、ここにチャン・イーモウの作風は定まったとも言える。『紅いコーリャン』の頃に比べると、コン・リーが完全に「女優の顔」になっているのがよくわかる。女性(たち)を主人公に据えるというのも前2作以上に明確に打ち出されており、本作は女たちに比べて男たちの影は非常に薄い。以後もチャン・イーモウは大半の映画で女性を物語の中心に置いている。主人公も含めて登場人物がいずれも全面的な善人ではなく、かといって全面的な悪人でもない同情すべき女たちとして描いているのも最初に観た時から非常に印象的だった。
チャン・イーモウお得意の色彩美も素晴らしい。画面いっぱいに彩る“紅”が非常に映える。主人が泊まる夫人の部屋の前に灯される巨大な紅い提灯や、主人と寝る夫人の血行を良くするために足裏を木琴のバチみたいな物で叩く風習もこれまたチャン・イーモウお得意の創作とのことで、実際にそういう風習があるんだとやはり長く騙されていた(いい意味で)。『紅いコーリャン』に次ぐ傑作だが、この映画もまた国内上映禁止になってしまったとのこと。