「彼の映画」現金に体を張れ 小二郎さんの映画レビュー(感想・評価)
彼の映画
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主演は、スターリング・ヘイドン。当時、ノワール系の作品に多く出ている。
ストーリーは、ヘイドンが本作の前に主演した『アスファルト・ジャングル』と結構似ている。っていうか、ノワールにありがちな話だと思う。
ダイアログ(脚本)担当は、ノワールの雄ジム・トンプスン。当時、今ほど評価が高くなかった筈だが、結果的に当世随一の人を見つけてくるなんて、やはりキューブリックさすがである。トンプスンの下衆な感じがいい味になっている。
俳優も、ストーリーも、ダイアログも、当時のノワールの王道だ。ある意味ものすごくベタである。ジャンル映画の枠に収まっている。
それにもかかわらず、印象は何故かノワールではない。
似たような話の『アスファルト・ジャングル』が、ノワールとしてしみじみイイ、古臭い郷愁が何とも言えずイイのに対し、
本作は、製作から50年以上経っているにもかかわらず、新鮮だ。キリっと屹立して澄んでいる。ノワールのそれとはまた違う、空虚さが漂う。
その新鮮さは、本作の異常なテンポの良さから来てるのか、舞台となる競馬場のレースシーンのスピード感から来ているのか、クールなラストシーンから来ているのか、酷薄な女優メアリー・ウインザーからきているのか、キューブリック独特の構図から来ているのか…。
ノワールというジャンル映画として撮られているのに、ジャンルの枠をはみ出た魅力がある。キューブリックの映画としか言いようがない。
『2001年〜』『シャイニング』や『フルメタル〜』などが、これ以上なくSF・ホラー・戦争映画だったにもかかわらず、それらのジャンルには収まりきれない、キューブリックの映画としか言いようがないのと同様である。
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