NANA : 特集
少女漫画の映画化事情
文・構成:赤尾美香
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「NANA」は現在もまだ雑誌連載中だが、13巻まで発売されている05年8月の時点でのべ2500万部近い売り上げを記録している、まさに21世紀最初のメガ・ヒット作。惚れたはれたの恋愛、20歳の奈々とナナの友情、てんこ盛りのイケメン達、バンド・サクセスストーリー……と、ここまではいわば少女漫画の王道。けれど、「NANA」で描かれる恋愛はドロドロとディープでリアル。おまけに、登場人物の多くは何らかの暗い過去を持ち、さらにはアンハッピーエンドを予想させる不吉で不気味な伏線があちこちにめぐらされている。このような、王道系少女漫画とサブカル(カルト)系少女漫画の、言い方は悪いが<いいとこどり>が、多くの読者を獲得できた要因だと言えるのではないか。
映画化にあたってナナを演じるのは中島美嘉、奈々を演じるのは宮崎あおい。方や人気絶頂のシンガーであり、方や日本映画界期待の若手実力派である。この組み合わせがまた絶妙で、他、松田龍平がいれば成宮寛貴もいるといった具合の配役は、原作と同じ<いいとこどり>である。80年代のアイドル全盛時代には小泉今日子が主演した「生徒諸君」や南野陽子の「はいからさんが通る」(阿部寛デビュー作!)が、また90年代には内田有紀の「花より男子」(藤木直人&谷原章介デビュー作!)や吉川ひなのの「デボラがライバル」といった少女漫画原作映画があったが、これらはアイドルが箔をつけるための映画(及び新人イケメン発掘か?)という枠を出ることはなかった。けれど、「NANA」の狙いは違う。何百万の読者という高く厚い壁を超えなければならない「NANA」はチャレンジャーであり、このチャレンジ自体が狙いだと言えなくもない。そして、とことん原作に忠実な「絵」を見せ、「言葉」を聞かせるることでその壁を超えようとしている「NANA」の成果は、少女漫画映画化の今後をも左右するに違いない。
と言っている矢先、早くも、「NANA」の影響は出始めている。これから2006年にかけて、羽海野チカのハチクロこと「ハチミツとクローバー」、ベテラン川原泉の代表作「笑う大天使(ミカエル)」、青木琴美のボクイモこと「僕は妹に恋をする」の映画化がすでに発表された。ハチクロの桜井翔&蒼井優、ミカエルの上野樹里という配役には納得もできるし、ある程度の狙いは読める。が、ボクイモはどうするんだ!? 少女漫画の服を着たエロ漫画とも言われるこの作品、女子中高生の間では今や珍しくもないエッチ漫画の代表作(こうしたエッチ漫画の流行が一時漫画離れを起こしていた若年少女漫画読者を呼び戻したことは事実)。落としどころは一体、どこになるんだろう? 誰が演るんだろう? ってことに、興味津々な私なのだった。
ちなみに、私が、少女漫画の映画化作品で好きなのは、吉田秋生原作の「櫻の園」(90)。制作者が原作に愛情を持って、漫画の世界観をスクリーンで表現しようとしているのが伝わってきて好感が持てたなぁ。