「本物の香りのするフランケンハイマー監督作品!」グラン・プリ KENZO一級建築士事務所さんの映画レビュー(感想・評価)
本物の香りのするフランケンハイマー監督作品!
男女の愛憎劇を散りばめたカーレース映画
なのか、
カーレース界を背景とした男女の愛憎劇
を描いたものなのか、
それほどレースシーン以外は男女間の愛憎が
満載の作品だった。
少年の頃、「ビッグコミック」の前身の
「ボーイズライフ」という雑誌があって、
カーレースの記事が
多く採り上げられていた。
「空飛ぶスコットランド人」と言われた
ジム・クラークのレース中事故での訃報が
大きく伝えられたF1、
フェラーリ・フォード・ポルシェによる
数々の名勝負のル・マン、
マリオ・アンドレッティの名前が
思い出されるインディ500、
等の記事も懐かしく、スポーツカーレースの
華やかしき時代を雑誌は映し出していた。
また、TVでも多くのカーレースが紹介される
時代でもあった。
さて、この作品、特に車体に低く取り付けた
カメラからの映像はそのエンジン音響と共に
今見ても凄い迫力だ。
また、実際のレースシーンに、俳優が直に
運転する場面を見事に組み合わせている。
実際、ガードナーもイヴ・モンタンも、
プロのトップスピードではないだろうが、
それでも相当のスピードで
F1マシンを走らせたものと思われる。
まさに本物の香りのする映画だ。
しかし、
ストーリー的には死相感が満ち溢れていた。
ドライバーにも観客にも死が訪れる。
死の観念は全てのドライバーに
常に訪れるが、一人のドライバーには、
いつもは観戦に来ない妻が現れると共に
血液型のブレスレットを付けるシーンが
ドライバーの死を予感させる中、彼自身に
己の仕事に疑問が生じた時に死が訪れた。
また、
スピードの迫力を見に来る観客がいる一方、
危険性を見に来る客がいることも語られる。
当時はスポーツカーレースは、まさに
生の死の狭間に身を置くスポーツだった。
従って、そこに男女間の愛憎も
より強く影を落としていたのだろう。
死せるドライバーを一番愛する女性よりも
救急車に乗り込むのは愛の冷めた妻
である描写が意味深だ。
ジョン・フランケンハイマー監督は
「大列車作戦」で実際に列車を脱線転覆
させる、驚異の映像を見せてくれたが、
現代のどんなCGでもかなわない
迫力のシーンだった。
この作品も含め、“本物”を感じさせてくれる
貴重な映像作家だと思う。