「不謹慎だが、とてもスリリング」ネタニヤフ調書 汚職と戦争 ミドレンジヤーさんの映画レビュー(感想・評価)
不謹慎だが、とてもスリリング
上映は名古屋市内で1館のみ。
客席はほぼ満席だった。
一応、ネタニヤフという人物と、パレスチナ問題については前日に各種YouTubeで一通りおさらいしての観賞。
結果、予習したことで理解が深まる箇所はたくさんあった。
(以下、ネタバレ含みますのでご注意)
映画で取り上げられる収賄は、まずネタニヤフ夫妻が高価なプレゼントを受け取っているという話から始まる。
高価な葉巻やシャンパン、観客である我々も「え?その程度のこと?」と思って観ていると、それがどんどん高価になり、さらには政治に深く関わる汚職になっていく。
そして彼はついに汚職で自国の警察に起訴される。
簡単に言うと、彼はこの戦争を自身の裁判をこれ以上させないために繰り返しているということが明かされる。
そのためにも彼は政権与党でいる必要があり、議席を確保するために2つの極右政党と連立を組む。そしてそれぞれの代表者(…とは言っても、世界地図からパレスチナを抹消するためなら手段を選ばない、いわば「ほぼテロ実行犯」みたいな人物)を、大臣に据えてしまう。
当然パレスチナへの圧力はそれまで以上となる一方で、敵を殲滅してしまっては戦争が終わってしまう。(その他にもいろんな思惑は語られているが)そこでガザ地区を牛耳るアラブ系過激派ハマスに対して、ネタニヤフは関係国を通して多額の支援を行っていることも明らかになる。
その資金は、この戦争の発端となった、2023年10月7日、ハマスによるイスラエルへのミサイル攻撃と人質の拉致を招くことになった。
何と皮肉なことか。
この日に起きたことは様々なカメラに捉えられ、非常に胸の痛い映像として、たくさんの怪我人や遺体を観客は目にすることになる。
ただ、ここで起きていることは今の日本もまったく同じ。
与党の政治家は裏金で私腹を肥やし(税金を着服している分、日本のほうが悪質)、メディアには放送法ちらつかせて圧力をかけ、少数与党であることを危ぶんで、右傾化した政党と連立を画策する。
本編の中で映像として私たちが目にするものは非常にショッキングなものだが、「明日は我が身」なのだ。
ちなみに、上映されている現在、イスラエルとパレスチナ両者は一応の停戦合意となっているが、イスラエルの攻撃は(ハマスが攻撃したとして)今も続いている。
そして、この停戦で極右の大臣二人は、このまま停戦が続くなら今度はネタニヤフ打倒を掲げて活動すると宣言した。
ネタニヤフやその家族が我が身可愛さで始まった収賄・汚職。それを裁かせないために画策したことが、国際的な戦争を引き起こすことになり、さらには自らの国の国民を終わりのない混乱に陥れている。
少なくとも国民はそのことにも気付いているが、戦争が終わらないので自分や家族の安全を確保することに精一杯。
そんな、誰も幸せになれない状態が今のイスラエルとパレスチナである。
映画は、最初の小さな贈答品を手にしたことから始まって、どんどんとエスカレートし、最後の地獄へと導かれていく。
上映時間の約2時間、流れはテンポがよく、とても分かりやすく描かれている。
不謹慎で申し訳ないが、その展開が最悪でありながらとても観ていてスリリングに感じてしまう。
現在進行形の災厄なので、決してエンタメとしてのみ消費すべきものではないが、日本がそれほど遠い環境でないことを思えば、我々は目を背けず我が事として受け止める必要がある。
