「映像美が強調されるけど、物語も名作。」落下の王国 4Kデジタルリマスター 島田庵さんの映画レビュー(感想・評価)
映像美が強調されるけど、物語も名作。
冒頭、
モノクロのスロー映像を背景に約3分、
ベートーヴェン交響曲第7番第2楽章が流れ、
おお、いいではないか。
ただこの曲、葬送行進曲風だから、
なにやら不穏さも漂わせ。
そのあと、カラーで、病院の風景。
病棟の2階の窓から顔を出し、
地上の看護師さんに向けて
「手紙ヒコーキ」を飛ばす5歳の少女。
あれ? この場面、見たことあるかも。
その後、その手紙ヒコーキが、
足を折ったらしい1階の若いにいちゃん(兄ではない)ロイのベッドに漂着するに至り、
いやこれ、間違いなく記憶にある。
さらには、
少女の名前アレクサンドリアにちなんで
アレクサンダー大王が妄想される場面に至って、
これ絶対見たことある、
となったんだけれど、いつどこで見たかは、全然覚えてない。
最初のモノクロは全く見覚えがなかったから、
おそらくケーブルテレビをザッピングしていて
たまたま見たんだろうと推測。
ともあれ、
断片的記憶はあるものの、
全編、新たな気持ちで楽しめた。
* * *
いろんなサイトで紹介される際、
映像の美しさばかり強調されてるキライがあるけれど、
ストーリーもまた、よいのであります。
ただでさえ影の存在であるスタントマンのにいちゃんが、
彼女を有名な役者にとられて自棄になっている中で、
アレクサンドリアに語って聞かせる荒唐無稽な作り話の
劇中劇映像が描かれる。
そしてこの映像が、構図も色彩も凝りに凝ってて美しさの極みなんだけれど、
同時に、話の途中でアレクサンドリアが
「死んじゃダメ!」とか
「爆弾は⁉︎」とか、ツッコミを入れ、
その都度ストーリーが変わっちゃうのが笑える。
隣のベッドのオッサンの患者がくどく何度も、I 'm not feeling well.と医者に訴えてる台詞が、
悪役最期の台詞になったりするし。
んだけれど、
後半になると、いろんなことがだんだん煮詰まってきて、
ロイは登場人物をどんどん死なせちゃう。
アレクサンドリアはそれに抗議するけど、抗議以上のことはできない。
だって語るのはロイだから。
そしてアレクサンドリアにも危機が。
さあどうなる。
という、なかなかスリリングな展開もあって。
何より
5歳のアレクサンドリアの
一生懸命さと賢さと天然さが
めっちゃよくって。
最後はエンドロールで
冒頭の第2楽章をフルで聴けて、
なおさら満足♪
これはまあ、
世界遺産撮影巡りなんぞしなくっても
名作だと思うのでありますが、
きっと監督が、凝り性の極みなんでしょうな。
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