劇場公開日 2025年11月21日

「◇ 物語の雫から広がる映像の波紋」落下の王国 4Kデジタルリマスター 私の右手は左利きさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0 ◇ 物語の雫から広がる映像の波紋

2025年11月29日
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鑑賞方法:映画館

興奮

 なぜ人は物語を語り始めたのか。
それは、抱えきれない思いや痛みを目を閉じて別の姿へ作り替え、心の中で扱える大きさに整えるためだったのかもしれません。『落下の王国』における男の語りは、その原初的な営みを思い起こさせます。少女の想像力を受けて形を変えながら、物語は二人の間にそっと居場所をつくり、弱った心を支えるための柔らかな足場となっていきます。

 そして、目を閉じて生まれた物語が、目を開いたときに“映像”として立ち上がり、ダイナミックに広がってゆく過程こそ、本作の魅力の中心なのです。

 煌びやかな映像によって、語られた物語が心の内側で変換されていくプロセスそのものが、風景の広がりや色彩の濃淡を通じて大胆に視覚化されています。言葉で抱えきれなかった感情の気配が、画面の奥行きや構図の静けさとして漂い、物語と映像が、互いを補い合うように連なって包み込んでくれるような感覚になりました。

 その映像表現の広がりのなかで、“落下”というモチーフが随所に静かに散りばめられています。

 落ちていく身体は死や悲しみの象徴でありながら、語り部と聞き手の心の交流を経て、どこか解放や再生のイメージへと昇華していくようでもあります。

 鑑賞後には、映像と言葉のあわいに宿る“物語の力”が静かに胸へ流れ込み、心の奥で小さな振動のような感動が残っていました。

 物語が本来秘めている、人の心を揺らす力。その力が映像によって再構成され、潜在意識に届けられる──その体験が、この作品ならではの深い余韻を生んでいるのでした。

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私の右手は左利き
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