佐藤忠男、映画の旅のレビュー・感想・評価
全3件を表示
こういうドキュメンタリーがあるんだ!面白い!
「佐藤忠男」の映画なので見に行った。このドキュメンタリーはとても不思議でとても面白い!佐藤忠男の妻も映画関係者も同業者も出てくるし彼の来し方も出てくる。自分にとってのベスト映画を尋ねられたら、映画をあんまり見ない人には○○○○と答えるだろうが、映画をよく見る人であれば「魔法使いのおじいさん」と答えるかな、と言う佐藤忠男。だからこの映画のテーマは「魔法使いのおじいさん」でもあるのだ!寺崎みずほ監督はインド映画「魔法使いのおじいさん」(マラヤーラム語)の監督(は亡くなってしまっている)の妻と息子を、カメラマンを、映画に出演した(当時子どもだった)人達を訪ねる旅に出る。インドへ、インドのケーララ州へ。映画の後半、「魔法使いのおじいさん」(1979)のシーンとその撮影地の現在の様子を交互に映す箇所がとてもよかった。都会になっても元気に生きている人間がそこにいた。
佐藤忠男がアジア映画のために立ち上げた「アジアフォーカス・福岡映画祭」のことを初めて知った。この映画祭に「賞」はない。「賞」があると監督同士が敵になってしまうからだそうだ。なるほど!その映画祭はいったん終わってしまったが、現在若い人達が繋げている。佐藤忠男のアジア映画の旅は驚異的だ。インド、中国、台湾、韓国、ベトナム、モンゴル、スリランカ、フィリピン、イランなどなど。「軍国少年」だったことへの贖罪意識、とパンフにあるが、そこにも書いてあるように、佐藤さんは面白い映画を見たい!という「映画少年」だ。品が良く美人の奥さんを大切にして、映画の仕事は二人でいつも一緒に。車椅子に乗る自分、妻の葬式やお墓の様子、弱って姪の家に世話になる様子、監督を信頼して自分をすべて映させた。
終演後、思いがけずトークショーがあった。監督が若くて背の高い素敵な女性でびっくりした。なんでびっくりしたんだろう?監督は時間配分を意識しゲストの方に話の時間をたっぷり差し上げ、テキパキしている。かっこいい映画監督だと思った。こういうドキュメンタリー映画が作られたことに喜びと新鮮さを覚えた。
おまけ
インドの「ケーララ州」、聞き覚えがある地名だとずっと考えていた・・・。わかった!映画「グレート・インディアン・キッチン」(2021/マラヤーラム語)だ!パンフレット(買っておいてよかった)で確認した。監督・脚本はジョー・ベービ。佐藤忠男さんはこの映画をご覧になれたかなあ。
稀代の映画評論家佐藤忠男
佐藤忠男氏は間違いなく評伝としてきちんと記録に残すべき稀代の映画評論家であったと映画『佐藤忠男、映画の旅』を観て強く感じたしだい。
晩年の氏と繋がりのあった国内外の映画関係者へのインタビュー、並行して佐藤氏のベスト作品だというインド映画『魔法使いのおじいさん』のスタッフたちの逸話などで構成される。
映画を好きになった経緯も興味深く、また奥方と共にアジア映画への探訪、映画祭監督としての氏の情熱にも胸をうたれる。アジア各国の良作を福岡で上映し、作品を保存してまた世界に向けて再上映するという。映画評論だけでなく映画祭を通して沢山の映画人を助けてもいたわけである。
「悪く書く評論家もいたけど佐藤忠男さんは紙面で褒めてくれた」生前そのようなことを嬉しそうにで話してくれたのはNHKの佐々木昭一郎さん。直接聞いた話である。
個人的な話だがその昔、ある劇場公開作品のチケットを新百合ヶ丘駅で氏と奥方が何十枚もその場で買ってくれた。これは今でも本当に感謝している。
映画人には甘かったようだが反骨精神は強かったようで一本筋の通ったところが氏の魅力なのだろう。『魔法使いのおじいさん』は観たことはないがインドのその土地のフォークロアや精霊のようなものを題材にしているらしい。どこか人間の原点ともいうべき本質的な人として最も大切なものが描かれているようで、やはりこのような作品をベストに選ぶところに映画評論家佐藤忠男の映画観、人生感があったに違いない。
上映後サプライズで寺崎監督の挨拶があった。90歳を過ぎても執筆の意欲は衰えなかったという。その後ロビーに監督がいてくれたのに感想の一言も伝えず大変失礼してしまったことをどうか許されたい。貴重な作品を作ってくれたことに感謝。
紀伊國屋書店5階にて『佐藤忠男 映画の旅』ブックフェア開催中。
『映画に魅せられて』を購入。しばし佐藤忠男の世界に浸かります。
全3件を表示

