トレイン・ドリームズのレビュー・感想・評価
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人の世の儚さと愛おしさが身に染みる
ピューリツァー賞候補にもなった小説をジョエル・エドガートン製作総指揮&主演、『シンシン/SING SING』('23年)で知られるクリント・ベントリー監督で映画化した本作は、アメリカの近代史を生きた1人の季節労働者の人生にフォーカスしている。
家庭の温もりを知らず、鉄道会社による森林伐採を請け負う男が、やがて、愛する人と巡り合い、子供にも恵まれるが、その後、不幸のどん底に突き落とされるものの、やがて、時代の変化を潜り抜けてきた自らの半生を肯定するに至る。彼がその間垣間見たのは、文明による自然破壊、人種差別と暴力、第一次大戦による経済不況、そして、人の世の儚さだ。
台詞を極端に少なくして、一見不運にも見える主人公の人生を介して語りかけてくるのは、より大きな視点から俯瞰すると人間の営みとは何と小さな出来事かということ。そういう意味で、見終わると妙にポジティブな気持ちにもなれるのだ。
主演のエドガートンは勿論、彼が出会う忘れられない人々を演じる脇役たちが素敵すぎて、切ない気持ちになる。すでに本年度のゴッサム・アワードで長編映画賞と脚色賞にノミネートされていて、オスカーにも絡んでくる可能性が高い。
静けさの手前で立ち止まった作品
本作は、扱っているテーマや、映画的文法に則って説明を極力排そうとする姿勢には好感が持てる作品だった。一方で、森林火災によって妻子を失った場面や救えなかったアジア人労働者が繰り返し描かれることで、主人公の葛藤がやや直接的に示されている印象も残る。すでに作中にもあるような、より静かな日常の描写―例えば、朝目覚めたベッドで上体を起こしたまま、うつろに部屋の片隅を見つめ続けるだけのカットなど―をもっとそれの代替として増やすことによって、同じ感情を別の形で伝える余地もあったように思う。
また、終始第三者視点で語られるナレーションについて、その語り手が誰なのかが最後まで提示されず、説明を避ける姿勢を理解しつつも、構造的な着地点の欠如を感じた。(よき理解者で友人であった売店の店主だという解釈か?)
終盤、飛行機に乗り世界を見渡すことで主人公が自分を受け入れていく展開は、象徴としては分かりやすい一方で、物語の内側で積み重ねられてきた内省とどのようにつながっているのか、もう一歩余韻を残す描き方も考えられたのではないかと感じた。全体として誠実な試みではあるが、最後の一線で踏み込みきれなかった印象があった。
何を持っているのか?世界がつながる瞬間を
時の流れの中でたくさんの出会いと、残酷な別れ。黙々と打ち込む職人気質で、自分とはというアイデンティティをあまり持ち合わせていない主人公の半生を、テレンス・マリックのように美しい撮影や詩的な語り口で描く。国をつなぐ列車と500年以上の歴史がある木を伐採していく森という、近現代と古につなぐ場所から。人類の歩んできた歴史、家族のつながりや紡いできたもの。何もかもが絡み合った世界に、取り残された意味を探してる。意味を求めても、答えを与えてくれはしない。ジョエル・エドガートンの自然体かつ静かな名演もあって、沁み入るラストは圧巻。演出と演技が織りなす親密な空気が、これが単なるアメリカの物語だけでなく、ぼくら観客自身の物語でもあると思わせてくれる本編尺以上に壮大かつ豊かな作品で、静かに胸打たれては心満たされるようだった。
勝手に関連作品『天国の日々』『ツリー・オブ・ライフ』
アメリカ人の心の奥底を静かに流れる川のような物語
デニス・ジョンソンの小説を丹念に映画化した作品。
小説同様、森林伐採と鉄道敷設現場で働く一人の男の生き様が淡々としたナレーションで描かれていく。孤児としてうまれ育ち、働き、恋をして結婚して子供を授かり、失い老いていく。ただそれだけを描写していく。
ただその様には全ての人の人生の喜びと悲しみとその残酷さ、またそれら全てに対する諦観が詰まっているように感じた。
余談ですが、私の好きな邦題「バスターのバラード」というこれもNetflixのドラマ風の映画があり、アメリカの西部開拓時代を舞台にした厭世観の詰まったペシミスティックな物語を軽いノリで描いているのですが、デニスさんの「ジーザス・サン」などと同様、移動し続け、根無草の様な人生に流されながらもある種の諦観を持ち、強かに生きる移民の国アメリカの個の強さを感じました。
円環
真実味を帯びた感情。
喪失感。そして再生。
映画の時代背景とは異なれど、地震、津波、大雨、火災・・・と様々な自然災害が隣り合わせの国内の被害者の方々に思いを馳せてしまう。
人との繋がりはあれど、自らと向き合い続けるものの、世界と繋がれないことへの苦悩や葛藤に対する答えを求め生きる続けることが、やけに真実味を帯びてくる。
ラストには絵も言われぬ恍惚感が待っている。
孤独
圧倒的な自然の美しさと残酷さ。
簡単な序盤のあらすじ。労働者のロバート(ジョエル・エドガートン)は木を切り線路を敷く仕事に就き、あまり他人と関わることなく静かに生きていました。彼はある時グラディス(フェリシティ・ジョーンズ)という女性と出会い恋に落ち結婚し子どもが産まれます。孤独だった彼ですが、労働の合間に家族との時間を過ごすしながらささやかな幸せを感じていました。
なんかね、ロバートは家族のために木の伐採の仕事に出るんだけど、見ていると結構きついことも多々あって。自然から恵みを与えられている一面で、自然に命を奪われる人も居たりして。仕事中に亡くなる労働者や…ついには自分の妻や子まで山火事で失うことになってしまうんですよね。
後半はもうずっと孤独なんですけど、ついには自然の中に妻や子を感じるようになっていく。切なくて残酷なんですけど、それが自然の摂理だよなぁ…って妙に納得もしてしまって。
ロバート役のジョエル・エドガートンの演技もよかったんですけど、アーンを演じたウィリアム・H・メイシーが本当に素晴らしくて。彼が登場してからいっきに物語に没入できました。
物凄く静かな映画で、内省的な男の人生を男の視点から見続けるので、退屈って感じる人も居るかもしれないですけど私は好きでした。いい映画。
森は見ていた
20世紀初頭、アメリカ開拓時代。
木を斬り倒す肉体労働に従事する男。鉄道建設で依頼が増え、仕事面は申し分ない。
ある時、一人の女性と出会う。結婚する。娘も産まれる。生き甲斐となる。
養う為に遠征も。多くの出会い。賢者のような初老の同業者。
多くの不条理。あちこちから集まった同業者の中には訳ありやお尋ね者も。目の前で賞金稼ぎに…。
突然の別れ。大規模な山火事が起こり、妻娘が行方不明に…。
必ず生きている事と再会を信じ、男の人生は続く。
また新たな出会いや再会、別れ。
ある時、娘が…! しかしあれは、現実だったのか、夢幻だったのか…?
時が流れ、時が流れ…。
年齢や身体で仕事に終止符を打った。
ずっと森の中で暮らしてきた。ある時、都会へ。
高層ビルが立ち並ぶ世界。人類が宇宙に行く時代。
文明と関わらず、ただ黙々と森の中で生きてきた自分の人生に意味はあったのか…?
ある事を通じて男は知る。世界、家族、自分の人生の繋がりを…。
名も無き男の生涯。
100分強で要約すると他愛ないが、その実は深い。
台詞で語らず、ジョエル・エドガートンの表情や佇まいが全てを語る。
深淵を見たような圧倒的な映像美。大自然は美しくもあり、恐ろしくもあり、荘厳でもあり。
まるで文学を読むような。
誰に知られる事なく生き、人生を終えた。
そんな男の存在と生涯を見ていたのは…。
ナレーションはただの説明ナレーションではあるまい。
この男と常に在り、その生涯を見続けてきた大自然や森の声…と私は解釈している。
出会いがあれば別れがある
タイトルなし(ネタバレ)
凄く共感出来るが、人生なんて断片的なものではない。覚えていないとんでもないことってたくさんあるし、それは自分でも忘れている事もある。当時に誰かに話すこともない。
しかも、自分の人生は自分だけのもの。つまり、他人の人生はその当該者のもの。
無理して語ることも無いし話すことでもない。
また、話して見返りを期待することでもない。
ついでに言うなら、生きているあいだは、自分の為に、自分の世界を広く楽しむ事だね。勿論、自分の為に。
主人公の人生に共感できた🎞️
最愛の家族の為に稼いで幸せに暮らす、そんな当たり前の幸せが現代日本では奪われたと感じるので、前半はとても良いと思いました。何か大きな事件があってからが、その人の人生の本番だと思いますが、新しい仕事を始めるも喪失から挽回できず、何か上手くいくお決まりの展開の映画とは違って、心に残りました。私も怪我でどうにもならない日々なので、「人生を失いつっある」と言うナレーションは、まあその通りで、しょんぼり度が高かったです。こうなったら、このチキンレースをどう生き抜くかと言う事ですが、映画はここで綺麗に終わっているので、後は各人で頑張ってと言う事だと思います。
孤独の特効薬のような映画
大傑作シンシン/SING SINGを手掛けたクリント・ベントレー×グレッグ・クウェダーのタッグによる待望の新作。
なんといっても凄まじいクオリティの映像美。
綺麗すぎて圧倒される。
20世紀初頭とは思えないほど原始的な暮らしの風景が観ていてすごく癒される。
家族との幸福な日々とその喪失を経て、苦しみの果てに辿り着いた"高み"で、全てが紡がれていることを実感するラストシーンがとにかく美しい。
親が誰かも知らず、跡継ぎも残さなかったロバートでも、目に見えない小さな虫や枯れ木と同じように、どこかで世界と繋がっていることを教えてくれる。
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