「本当の暗闇」ダンサー・イン・ザ・ダーク つーじさんの映画レビュー(感想・評価)
本当の暗闇
胸糞モノとして有名な映画で、実際に胸がうっとなるシーンが続く。時折挟まれるミュージカルシーン。徐々に光を失っていく彼女が直面する現実のままならなさの中にも、音と頭の中の自由さがあれば光をもてることを示しているように捉えた。
徐々に眼の病気が進行し、ついに失明に至ってもなお、彼女は息子ジーンのことを祈り続ける。彼女は、将来失明に至るであろう息子のためにお金を貯めていた。その金がその後の事件のきっかけになるのだが。
彼女を気にかけているジェフが、ちょいちょい鋭い質問をする。「なぜ産んだんだ?」。眼の病気が遺伝すると知っていてなお、どうして産んだんだ? という質問だった。彼女は「赤ちゃんを抱きたかったの」と泣きながら答えた。
よく、何かを生み出すことは罪である、と言われることがある。でも、私たちが生命を繋ぎ続ける理由に、「赤ちゃんを抱きたかった」以上の理由はもしかしてなくて、その欲求に逆らえなかった結果として、ジーンが生まれたのかもしれない。
だとすれば、人を産むこととは、人を殺すことと同じくらい、確かに罪なことだと言えるのかもしれない。彼女は、そのことを分かっていて、彼女の主観において彼女の残りの生は、息子への贖罪の生だという覚悟があったように見えた。
ついに失明したセルマに、ジェフは「もしかして、目が見えないのか?」という質問をする。その質問にセルマは、「見るべきものはある? 私はもう見たのよ」と答える。彼女にとっての本当の暗闇とは、歌声も、風の音も、息子の声も聞こえなくなることだった。
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