「胸を掻き乱す、言い知れぬ不安と悲惨」ダンサー・イン・ザ・ダーク しゅうへいさんの映画レビュー(感想・評価)
胸を掻き乱す、言い知れぬ不安と悲惨
第53回カンヌ国際映画祭パルム・ドール受賞作。
Blu-rayで鑑賞(字幕)。
「ニンフォマニアック」二部作が大変面白く、ラース・フォン・トリアー監督の他の作品を観てみたくなりました。
本作のあらすじを読んで、ストーリーに何か惹かれるものを感じ、ブルーレイを購入して鑑賞することにしました。
物語の持つ圧倒的なパワーに呆然とし、深く考えずに気安く手にするんじゃなかったと思いました。主人公に待ち受けているものが悲劇しか無いのが目に見えていたので、不安と悲しみに胸を掻き乱され、体が捩れそうになり、中盤で観るのを止めてしまいました。心の冷却期間が必要でした。続きを観る気になるまで1ヶ月掛かりました(笑)。
ドキュメンタリー・タッチで、主人公とその周囲の人々が織り成す出来事を淡々と映し出していました。ところが、突然現実世界を離れて主人公の心象風景、もしくは妄想と言えそうなミュージカル・シーンが始まり、カオスに脳が揺さぶられる。現実と心象の要素のどことなくアンバランスでちぐはぐな感じが、そう云った印象を抱かせている気がしました。
純粋な心を持ち、息子を心から愛するセルマを見事体現していたビョークの、凄まじい歌声と演技に魅了されました。
往年の名女優、カトリーヌ・ドヌーヴの安定感抜群な存在感も、物語にメリハリをもたらしているように感じました。
演技はバランスが取れているのに、時折挟まれるアンバランスとのギャップが激しくて、本当に頭が痛かったです(笑)。
運命とはつくづく残酷だと思いました。一生懸命働いてコツコツ貯めた息子の手術費用を、視力が弱いことを利用され、信頼を寄せていた人物に盗まれてしまう。鬼畜の所業に「なんでそこまで出来るんだてめぇ!」と声を荒げたくなりました。
まるで純粋なことが悪であるかのように主人公は徹底的に追い詰められ、衝撃的で悲惨な末路を辿って行きました。
思わず目を覆いたくなる陰惨な展開の連続に、だんだん心に重しを載せられていくような錯覚を覚えました。ツラい。
苦痛に耐えながら鑑賞した末に、とてつもない解放感が得られると云うわけでもない。鬱屈した想いに苛まれました。
心が痛いほどに締めつけられ、そして掻き乱され、そのまま無情に突き放されると云う感覚にさせられた作品でした。
でも不思議と、ふとした瞬間にもう一度観返そうかな、なんて思ってしまう魅力にも溢れているように思えました。
なんとも不思議。
※修正(2023/12/03)