「悲惨すぎる…沈黙守るなよ!!」ダンサー・イン・ザ・ダーク だいずさんの映画レビュー(感想・評価)
悲惨すぎる…沈黙守るなよ!!
超有名作なのに、今まで見れていなかったダンサーインザダーク。京都シネマ名画リレーにて観てきました。会員500円。
観たいとは思いつつも、悲惨であるとの声にびびっていたわけですが、確かに悲惨で、この悲惨さをポジディブに(美しさとか感動として)捉えることができませんでした。
セルマは殆ど目が見えてなくて、最後は完全に失明しているっぽい。
遺伝性の目の病気だから、息子に手術を受けさせたくて必死で倹約・貯金。
だけど隣人で大家で警官のビルがそのお金を盗んだ。返してといったら、ひどいうそをつく。セルマに誘惑されて、さらにセルマがビルのお金を盗んだ事にされた。ビルが拳銃でセルマを脅しているのに、セルマが拳銃で脅した事になった。
それでもお金を返してくれというと、自分を撃て、殺せとビルは言う。
セルマはお金を返してもらわなくてはいけなくて、わけもわからなくなって、ビルの言葉通りに殺してしまう。
そして、セルマはビルのやった事は沈黙する約束だからといわずに、自分の言える事だけをいって(息子に目のことを知られたくなくて必死というのもある)絞首刑にされる。
セルマはミュージカルが生きがいで、市民ミュージカルみたいなのに参加していて、サウンドオブミュージックのマリア役を得ている。
セルマは、考えが浅く正直者がバカを見る系で私は苦手な人だ。
秘密には秘密を、とか、約束したから沈黙を、とか。牧歌的すぎる。世界はもっと激烈で入り組んでいて、きれいごとは通用しない。でもそんな世界は見ていない。そこが苦々しい。自分も一歩違えばセルマになりそうな共通点を感じるからか、とても苦々しい。
ミュージカルは、つらい現実を一時離れるための装置。だからつらければつらいほど、ミュージカルに没頭するような感じがして、哀れだった。
私もミュージカルは好きだし、つらい現実を忘れるための空想とか、現実をやり過ごす糧としての物語を欲している。だけど。
一方で、世渡りも如才なさも必要だと知っている。自分を守るために人を欺く事を覚えたりもしている。自己主張もするし、卑怯を糾弾もする。
セルマはそういうことをしない人で、他人の行いを責められない。それは優しさでもあるかもしれないけど、私には弱さとしか受け止められず、彼女を肯定できなかった。
遺伝すると知っていても、赤子が抱きたかったのは、わかる。とても自己中心的で大事な動機。それはいい。なんでその強さが他に広がらんかね。泣き叫ぶ以外にできることあったでしょうよって思っちゃう。
わたしが傲慢なのかな。
何よりいかんのはビルなんだけどね。ビルがさ、ほんっとに、ゲスでゲスで。眠れないとかゆってトレーラーにやってきた時からセルマから金を引き出そうとしてた訳でしょ。許せん許せん。自分が機嫌を損ねずに妻の浪費を止めるすべが無いからって、店子の母子家庭から金をせびるって発想がもうどうにもならへん。それを人に罪をなすりつけて自分は無実のふりして死んで逃げるなんて。
世界一嫌いな人かもしらん。
映像は結構ザラザラしていて、いいカメラじゃない感があります。8ミリ感というか。
類を見ないタイプのミュージカルではあるんよね。ビョークの妖精感とボサボサヘアーがかもす俗世感とのミックス具合とか、くすんだ色合いのミュージカルシーンとか他にない。でも感情が傑作という評を拒む感じがしちゃう。
そんなダンサーインザダークでした。
暗闇の中にいる踊り子。
セルマのことでしょう、多分。
おそらく物理的にみえないことと、世界を知らなすぎるという二重の意味で暗闇を生きた踊り子っていう意味があるんちゃうかな。