「真剣に野球に取り組んだ青年のドラマ」栄光のバックホーム コタローさんの映画レビュー(感想・評価)
真剣に野球に取り組んだ青年のドラマ
映画『栄光のバックホーム』は、横田慎太郎という一人の野球人の生と向き合った作品である。阪神タイガースファンにとって、彼の引退試合での奇跡のバックホーム、そして2023年の歓喜の優勝。その瞬間をリアルタイムで知っているからこそ、スクリーンに映し出される記憶が深く胸に突き刺さる。過去に見たシーンであっても、映画の文脈に乗せられ再び目の前に現れると、ただ懐かしいだけではなく「彼が確かに存在していた」と痛いほど実感させられる。それは記録映像の再現ではなく、感情を伴った追体験だ。
そしてこの作品の素晴らしい点は、ファンとして知っていた物語の外側にも光が当てられていることだ。横田の少年時代の表情、プロ入り後の葛藤、病と向き合う中での小さな希望や仲間の支え――知らなかった背景や細部の数々が丁寧に描かれ、こちらの理解と感情はさらに深くなる。「ただ強かった」「ただ優しかった」では済ませない、人としての揺らぎや弱さまで映し出されることで、観客は彼の人生を一層近く感じる。知っていたはずのストーリーに、新しい輪郭と温度が宿る。
500万人の阪神ファンが共有してきた歓喜と涙。その中心にいた横田慎太郎の人生を、この映画は確かな熱量と敬意を持って描いた。終盤にかけて涙を誘う演出はあるが、それは感動を押し付けるためではなく、彼の生き様に宿る光を受け取るための必然だったように思う。スクリーンを見つめる時間、観客は横田と、阪神と、自分自身の記憶と向き合うことになる。
――知っていたからこそ泣けた。
――知らなかったことを知れたから、さらに胸が熱くなった。
今年観たヒューマンドラマの中で、間違いなく一番良かったと断言できる。
『栄光のバックホーム』は、記憶を揺らし、心に新しい火を灯す一本だった。
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