「トランプさん、こんな映画をつくっている人たちがいますけど。」ハウス・オブ・ダイナマイト あんちゃんさんの映画レビュー(感想・評価)
トランプさん、こんな映画をつくっている人たちがいますけど。
キャサリン・ビグローももう73歳なんですね。この人の作品は実話を下敷きにしてドキュメンタリー風にみせるものが多い。「ハートロッカー」も「ゼロ・ダーク・サーティ」も「デトロイト」も。本作はもちろん実話ではないが、米国がもし攻撃を受けた場合の対応体制を取材し綿密なドラマとして構築した。この人の作風の特徴は、事実関係を淡々と追っているだけのようで、実に冷徹な視点というか第三者的な感覚で全体がコントロールされているところ。登場人物が時として感情をあらわにするようなシーンもあるが、決して流されてはいない。むしろそれを突き放して眺めているような独特のクールさがある。
さて、本作では、西太平洋のどこからかICBMが発射される。衛星はシステム的な妨害を受けて発射時の情報が捕捉できていない。つまりどこから来たものか分からない。当初はそのまま太平洋に着水すると思われていたがそのうち水平飛行になりアメリカ本土を目指していることが明らかとなる。到達見込みは19分後。この事態に、大統領、ホワイトハウス、危機管理部門、軍などのメンバーが対応する、あるいは対応できない姿が描かれる。NSC(国家安全保障会議)ではなく、戦略軍中心の実務者会議で情報共有と具体的意思決定が進んでいくところがリアルだし、事態対応の一方で「政府継続プラン」(政府の重要メンバーを核シェルターで保護する)が発動するところもリアル。これらすべてにSOP(手順書)が存在しその通りに物事が進められるのが如何にもアメリカ流。先行レビューに40歳代と思われるジェイク・バリントンが大統領と直接話したりロシアの外相と交渉したりするのがおかしいとあったが、あれは安全担当大統領補佐官が病欠のため次席補佐官が繰り上がって役割を果たしているだけ。それも多分、SOPで定められている。「沈黙の艦隊」みたいなテキトーなことはない。
リモート会議がお話の骨格だが、誰かの発言中に他の人が発言した、それが重要なファクターとしてその発言者のシーンで再び取り上げられる、これが繰り返されかなり輻輳した構造となっている。単に同じ話が3回繰り返されるというだけでなくストーリーに圧倒的な厚みがある。
一方で、レベッカ・ファーガソン演じる危機管理部門の大佐や国防長官のように情報を勝手に家族に流して逃がそうとする姿も描かれる。これもおかしいとのレビューもあったけど、管理面でどうのこうのということではなく、彼ら彼女らも単なる組織の歯車ではなく人間的な側面を持ち合わせているんだということを言いたかったと見るべきだし、そういうところも含めて事象と感情の流れをクールにドラマ化するのがビグロー流なのだと思う。
でも今これと同じことが実際にアメリカで起こったらどうなるのだろう?トランプ本人はともかくとして、右翼と嘘つきとイエスマンで固められたホワイトハウスが正しく機能するとは思えない。怖いです。
共感ありがとうございました。
最も気になったのは、アメリカの社会的風潮ですね。家族には何でも話してしまう。話しても赦されるところ。
トランプVSヒラリーの大統領選で、ヒラリーが携帯で機密事項を身内とやり取りしていたことをトランプに突かれて逆転負けしたのは記憶に新しい。
大統領に常に付き添う、「黒カバンの男」実は危機の際は彼が事実上の最終決定をする役割なのでは、と思いました。大統領の資質ははなから信用されておらず密室で大統領と二人きりで黒カバン氏のほうがこういう問題の専門家。マニュアルがそこまで想定しているらしい徹底ぶりが空恐ろしいくらいでした。
今晩は。コメント有難うございます。
私も、途中までアメリカを統べる男を揶揄しているのだな、と思いながら観ていましたが、途中からそれプラス、ロシアを統べる男、イスラエルを統べる男、小太りトッチャンボーヤという愚かしき男達を全て、キャサリン・ビグロー監督はこの作品で鑑賞側に想起させ、世界各地で起きている”今、そこにある危機”を伝えようとしたのかな、と思いました。
今度、イスラエルを統べる男の衝撃のドキュメンタリー映画が公開される事を、本日映画館の予告編で知りました。楽しみです。では。




