「太宰という蟻地獄で苦闘する。」三谷幸喜「おい、太宰」劇場版 alfredさんの映画レビュー(感想・評価)
太宰という蟻地獄で苦闘する。
個人的なことを書くと、私は三谷作品とは相性が悪い。
地方で学生だった頃、東京で面白い舞台作家が出てきたという話が雑誌などから漏れ伝わり、ようやくその作家の映画化作品が上映になったのが「12人の優しい日本人」だった(三谷幸喜は脚本のみで、監督はしていない)。
名作「怒れる12人の男」をベースにして、裁判員制度導入前の日本で陪審員制度を空想する狙いは面白いとは思ったが、何んだか肩透かしを食らったような思いが残った記憶がある。
その後、テレビなどでも三谷幸喜作品に出会うのだが、やはりしっくりと来ないものが続いた。
僭越ながら、互いのセンスが違うと思った。センスは語源的には「方向」を示す言葉だ。三谷幸喜が右を見ていると私は上を見ているといった感じだろうか。互いにソッポを向いているのだ。
近年の作品でも、笑いの種類やタイミングが違うといった感じが続いている。
今回はワンシーンワンカットだそうだが、ワンシーンワンカットというと、ヒッチコックの「ロープ」を思い浮かべる。しかしヒッチコックを気取るととんでもない失敗をやらかすというのは映画界の法則ではなかろうか?
と、ここまでは映画鑑賞前に下書きしておいた。
案の定、本作は失敗と言ってよいだろう。上映中、少ない観客から笑い声が出ることは一度もなかった。
笑いの狙いはわかるが、狙いが分かりすぎて意外性がない。ワンシーンワンカットが持つ胆力が全然生かされていないなど、不満は多い。
太宰には「トカトントン」という短編があり、この題名?が映画の中に登場する。こういったトリビアが太宰ファンには刺さるのだろうか(私は太宰ファンではない)。
太宰は映画化されやすい作家だが、下手に手を突っ込むと抜け出せない蟻地獄になる。
三谷幸喜にそういった覚悟はあったのだろうかと疑問だけが残った。