劇場公開日 2025年8月2日

「え、意外に核開発情報の漏洩に対する監視の目は粗かったんだ、と今になって驚かされる一作」原爆スパイ yuiさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0 え、意外に核開発情報の漏洩に対する監視の目は粗かったんだ、と今になって驚かされる一作

2025年8月2日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

1945年の核開発成功によって、米国は世界で唯一核兵器を保有・使用した国となり、その数年後にはソビエト連邦も核兵器を開発、冷戦期を迎えた世界は長らく核戦争の恐怖に怯えることになります。

ソビエト連邦がかくも迅速に核兵器を開発することができた背景には、米国内におけるスパイ活動や情報漏洩があるとされ、実際本作でも取り上げている「ローゼンバーグ事件」が起きています。

本作が取り上げるセオドア・ホールも、マンハッタン計画に参加した最年少の物理学者であることに加え、ソビエト連邦側に情報を漏洩した当事者の一人です。彼は1999年に死去していますが、その前にインタビューに応じて、自らの意思で核開発に関連する情報をソビエト連邦に流したことを認めました。

なぜ彼は国家機密情報を漏洩させたのか、どんな人生を送ってきたのか。本作は彼の妻、ジョーンの視点で彼の半生を語っていきます。基本的にはホール夫妻の視点で語っていくので、彼がどのような情報を漏洩して、いかなる形でソビエト連邦側の核開発に貢献したのか、そして死刑判決を受けたローゼンバーグ夫妻と異なって、なぜ彼らはその後も自由に生活できたのか、といった核開発におけるスパイ活動の全容を詳らかにしている、という内容とはなっていません。だからこそ、本作の背景や関連する事件などを調べたくなる作品ともなっています。

冷戦期のスパイ活動については、フレデリック・フォーサイスやジョン・ル・カレを始めとした作家・作品が様々な角度で描いているので、本作を観た後で参考資料としてそれらの作品に当たってみるのがおすすめです。

映画界におけるレッド・パージの状況を見聞きすると、当時の米国ではスパイの嫌疑をかけられた人は片っ端から逮捕・追放されていたような印象を受けていたのですが、国家最高機密にあたる情報を漏洩したことに対して、当局側が割と粗い捜査をしていなかったことが、ちょっと意外!

yui