「テニス一辺倒だった少女がトラウマになりそうな出来事を経験し 精神的に辛い状態になりながらも 周囲の助けも借りて自立した大人のアスリートへの道を一歩踏み出す成長物語」ジュリーは沈黙したままで Freddie3vさんの映画レビュー(感想・評価)
テニス一辺倒だった少女がトラウマになりそうな出来事を経験し 精神的に辛い状態になりながらも 周囲の助けも借りて自立した大人のアスリートへの道を一歩踏み出す成長物語
この作品、ドキュメンタリー•タッチで淡々と描いているようでいて、全篇を通して「圧」みたいなものがスクリーンから伝わってくるような感じ。ある少女の成長を描いたビルドゥングスロマン(小説のジャンルに使う用語をあえて使えば)で、ある種の青春映画だと思います。そこには「テニスにかけた青春」が確かにあります。
主人公のジュリーはベルギーにあるテニスクラブに所属する、15歳のかなり優秀なテニスプレーヤーで、数週間後にベルギー•テニス協会の選抜入りテストが控えています。そんななか、衝撃の出来事が…… ジュリーのコーチでもあるジェレミーがコーチしていたアリーヌが自死してしまうのです。ジェレミーの行き過ぎた指導が取り沙汰され、クラブはジェレミーを指導停止処分にし、クラブ内で彼に関するヒアリングを実施します。彼のコーチングを頻繁に受け、クラブ内で最も近い関係と思われていたジュリーは重圧がかかるなか、彼に関しては沈黙を保ちます。
まあ、沈黙するしかなかったんでしょうね。15歳の少女には受けとめきれない出来事だったと思います。ジュリーは幼い頃から、テニスにとことん打ち込んできた感じで、悪い言葉で言うと「テニス馬鹿」みたいな風情で、精神的にはまだまだ子供といったところ。これまで信じてついてきたコーチの不祥事に大きく動揺して精神的にはいっぱいいっぱいの状態に陥ったと推測できます。
ジュリーは指導できなくなったジェレミーと会って話し合ったりもするのですが、会話の内容からすると、やはりジェレミーはある種コントロール•マニアみたいなところがあって、パワー•ハラスメントしそうな感じではありました。ジュリーは恐らくはクラブ内でライバル関係にあったであろうプレーヤーの自死という事態を受けて、ちょっと立ち止まって考え始め、自身の身の周りの事物の棚卸しみたいなことを始めてそれらを取捨選択してゆきます。まず、ジェレミーからは完全に離れます。クラブが用意してくれた新しいコーチに対しては、コーチとプレーヤーとしての表面上の関係は築きますが、ホンネのところでは信用していない感じです。このあたりのジュリーはテニスの練習も日常生活も普通に過ごしているように見えますが、精神的にはあっぷあっぷの状態だったのではないでしょうか。そんななかでテニス協会のテストに臨まなければならないのです。
そんなときに大切なのは友人の存在です。ベルギーの高校(中学?)にはドイツ語のクラスがあるんですね。そのクラスでジュリーは男子女子各ひとりとともに3人で外国語学習にはよくあるロールプレイの練習しています。クラスメイト皆の前で3人で寸劇を披露しているシーンでは不覚にも目頭が熱くなりました。また、テニスクラブの友人たちも彼女にとって大きな心の支えとなったことでしょう。
結局、ジュリーはテストに合格します。仲間に祝福されながらも、彼女は沈黙を破って公の場所でジェレミーに関する証言をすることを決意します。そんななかでも、プロ•テニス•プレーヤーとしての未来を夢みる彼女の日々の鍛練は続きます。黙々と腕立て伏せを繰り返す彼女の姿。そのトレーニング•メニューはかつてジェレミーに課せられて始めたものだったものかもしれません。いずれにせよ、彼女は大人への階段を何段か登ったのです。
この作品、終始ドキュメンタリー調で淡々と進み、劇的な展開もなく、感動を煽ったりもしないので、その分、鑑賞者の想像力を刺激してきます。好みがわかれるかもしれませんが、TVドラマでもなく、小説でもなく、演劇でもなく、いかにも映画的な興趣に富んだ作品だと感じました。
