「◇ (dream of America)カッコ付き」ワン・バトル・アフター・アナザー 私の右手は左利きさんの映画レビュー(感想・評価)
◇ (dream of America)カッコ付き
ポール・トーマス・アンダーソン監督が描いて見せる人物像の陰影が好きです。人は自分と他者を区別する時に、大まかな性格の総体として人間性を把握してます。陽気な人、怒りっぽい人、大人しい人、善玉悪玉。実際には、人物像はそれほど単純化できるものではなく、心理は常に揺れ動き、時間の経過や環境の変化に伴って多様な姿を表します。
登場人物は細部を丹念に描き込むためには、その人の過去に遡って語り起こさなければなりません。PTA監督作品の多くのキャラクターが歴史上の過去の人物であったのも、人物として描き切るための技法だったのかと改めて気が付きました。
物語前半、テロ活動の描写が早いテンポで進行します。そのスピードに違和感さえ感じます。それは、恐れを知らぬ若さの象徴、アメリカンドリーム的世界観。
16年後として語られる物語後半、PTA監督作品としては珍しい同時代(2020年代)が執拗に細部に渡って描かれて感じました。父と娘の物語。
父は過去という“夢”にしがみつき、娘は現実の闇に踏み込もうとする。二人の間にあるのは、愛情と同じくらいの距離と不信――それはPTA自身が「いま」をどう描くかという葛藤と重なっているのかもしれません。
革命の過去と怠惰な現在との距離、理想と現実の溝、そして世代間ギャップの象徴と重なります。ここに来て、前半の駆け足に過去を語るリズムと後半の現在の世界の意図的な変調に気が付きます。
佳境を迎える物語。銃撃や追跡アクションという外的クライマックスと、父と娘の絆・相克という内的クライマックスとを鏡合わせにしようとする構造。視覚的にも感情的にも私は完全にノックアウトされました。
移民問題、現在もアメリカに根強く蔓延るKKK的な有色人種に対する闇の世界、アメリカンドリームの裏側。シリアスな問題をクスクスっと笑える皮肉とともに、往年のアメリカ映画的なアクションシーンに添えて、完璧な構成で物語を語り尽くしています。
(dream of America)喜怒哀楽でした。
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