劇場公開日 2025年10月3日

「父の教えを守る娘にジーンとくる」ワン・バトル・アフター・アナザー sow_miyaさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5 父の教えを守る娘にジーンとくる

2025年10月5日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

「トラップ」に続き、2日連続で、父と娘の映画。(メインのテーマはそうではないかもしれないが、どうしても、娘を持つ父親目線で観てしまうのでw)

こちらの娘も中々ハードモードだったが、シャマラン監督もそうだったように、ポール・トーマス・アンダーソン監督も、娘には嫌われたくないんだろうなということが伝わってくる作品だった。
出自に関わっては、どうしようもない現実を知らされることになっても、それを正面から受け止めて、キチンと自分を大切にしてくれる人を間違えないという描き方や、性被害に遭いそうな状況も、未然に防ぐ方向に展開させるなど、本作でいえば、娘のウィラが汚れずに自立していく脚本にしているところが好印象。

ダメ親父のディカプリオもとてもいい。
娘が生まれた途端にメロメロなのもいいが、高校の保護者面談で、娘を褒められて泣いてしまうところとか、逃亡中に、落っこちて捕まってしまうところとか、抜けてて不器用なところが心から愛せる。(長い暗号を覚えていられなくて、長々と毒づくところとか、大好き)

そういう「観ていて愛せる個人」が、様々な事情で争いに巻き込まれていく、その展開のスリリングさを楽しむという目論みは大成功していると思う。少し長めの作品だが、最後までダレずに観ることができた。

<ここから、少し内容に踏み込みます>

・今作は、革命を掲げて行動する者たちや、強制送還を待つ非正規移民の人々、メキシカンコミュニティやネイティブアメリカンをモチーフにしているが、政治的なメッセージや、何らかのプロパガンダをメインの目的にしているとはいえない中で、「クリスマスの冒険者たち」には、ひとこと言いたかったんだろうなと感じた。

・というのも、ショーン・ペン演じるロックジョーは、ヴァージルに撃たれて事故ったところで退場でもよかったはず(尺も縮まる)。それなのに、ターミネーターのごとく蘇り、わざわざもう一度「冒険者たち」に殺されたわけで、あの秘密結社の思想の気持ち悪さや、儲けのためには安い労働力として非正規移民を一定数手元に置くという欺瞞さ、そしてその結社に入ることを「何よりもの栄誉」と考える哀れさを、どうしても描きたかったのだろう。

・まるでKKKのようだなと思ってWikipediaをみたら、 KKKの結成は1865.12.24と記されていたので、「クリスマスの冒険者たち」というのは架空の結社だろうけれど、KKKを意識したネーミングなのかもと想像した。

・「センセイ」が出てきてからの一連の流れが最高だった。彼らのコミュニティの温かみもさることながら、全然携帯を充電させてもらえないベタな笑いとか、パルクールみたいにビルの上を駆け抜けるシルエットのカッコよさとか、捕まってからそこを抜け出すまでの予想外の展開とか、車から放り出されるときのお決まりのビビり具合とか…。
一本調子に陥らない、いい展開だった。

・ペルフィディアについては、「おいおい、手紙一通で許されると思うなよ💢」と思いながらも、「自分の欲望に真っ直ぐな人ってことですよね」とも思った。自分はあんまり関わりたくないタイプだが、物語には必要な人なので仕方ない。

・彼女に「Get up!」と言われ、立ち上がろうとしたら「そっちじゃない」って言われて、すぐに反応できるロックジョーが、ある意味すごいw

・ロックジョーのピチピチのTシャツをウィラがイジるシーンで、某芸人が脳裏をよぎった。

・DNA鑑定を、ああやって使う作品を初めて観たが、脱帽。よく思いついたなと思う。

・100mくらいから反応する例の機械。出がけには、あんなに嫌がっていたのに、最後まで肌身離さず持っていて、父の教えを守る娘にジーンとくる。ディカプリオに、いい娘に育ってよかったねと声をかけたくなった。

sow_miya
ゆきさんのコメント
2025年10月9日

こんにちは。
映画を観た後の興奮が蘇る楽しくて鋭いレビューでした!
私もウィラを汚れず自立させた脚本は良いなと思いました。
(ワン・バトルアフターアナザーになっちゃったけど汗)
「Get up!」でちゃんと"タテル"ロックジョー。
優秀な変態でしたw
面談で泣いちゃうボブには先生同様イヤイヤってなって笑ったし、迎えに来た男の子に酷い言い方w
ネチネチクギ刺すのもめんどくさーって思ったし、でも口紅の子の事はアイツはSheなのかHeなのかTheyなのか?って聞く所なんてソコは配慮あるんだって笑ったし、とりあえずボブ父さん憎めずw
スケボー三人衆のシルエット、カッコ良かったですね。
そしてロックジョーを2度殺したクリスマス。
あれは強烈なメッセージでしたよね!

ゆき
すけあくろうさんのコメント
2025年10月9日

松本人志さんですよね、わがります

すけあくろう
ノーキッキングさんのコメント
2025年10月5日

共感ありがとうございました。
ディカプリオ、ショーンペン二人のからみが殆どない、珍しい映画でした。

ノーキッキング
こひくきさんのコメント
2025年10月5日

共感ありがとうございました。
レビュー内容に感服しました。単なる感想ではなく、「父と娘」「社会と個人」「愛と赦し」という複層的なテーマをここまで誠実に読み解くレビューは稀ではないでしょうか。

ディカプリオの“ダメさ”を愛情として描く視点や、脚本の倫理的バランスへの言及も見事で、映画そのものへの敬意が伝わってきます。

特に「観ていて愛せる個人」という表現が秀逸で、まさにこの作品の核心を突いていると思いました。読み終えて、もう一度この映画を観たくなりました。

こひくき
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