「家族と月月火水木金金」ワン・バトル・アフター・アナザー 鶏さんの映画レビュー(感想・評価)
家族と月月火水木金金
原題であり、そのまま邦題としても使われた「ワン・バトル・アフター・アナザー(One Battle After Another)」。意味合いが今ひとつ掴めなかったのですが、序盤でセリフとして登場し、「戦闘また戦闘」と字幕が出ていました。思いきり意訳するなら「月月火水木金金」といったところでしょうか(かえって分かりにくいかもしれませんが)。
実際、物語は戦いに次ぐ戦いを描いていましたが、単なるアクション映画ではなく、政府との闘いに身を投じた“プロテスター家族”の物語でもあり、むしろ後者に重心が置かれていた印象です。
まず“戦い”の側面に触れると、移民への抑圧や排外主義、人種差別といった現代アメリカ(あるいは全世界的)に蔓延する問題に抗議するプロテスターであり、同時に“テロリスト”とも見なされる主人公ボブ(レオナルド・ディカプリオ)と、彼のバディにしてパートナーのペルフィディア(テヤナ・テイラー)が属する革命組織“フレンチ75”と、それを取り締まるアメリカ軍(劇中では警察的な描かれ方をしていましたが、公式サイトでは軍とされています)との戦いが序盤で展開されます。
この戦いを指揮するのがスティーブン・J・ロックジョー(ショーン・ペン)。彼の悪辣さ、いや異常性欲者としての狂気ぶりが物語を強烈に牽引します。単なる非人道的行為を行う軍人ではなく、歪んだ性欲を持つ人物として描かれているのがポイントでした。また、ボブとペルフィディアの性の奔放さも印象的で、テロ直後におっぱじめるなど、正規軍とテロ組織の戦いの裏で、敵味方入り乱れた三角関係が展開されるという予想外の筋立てに唖然とさせられました。
やがて二人の間に“戦いの申し子”とも言える娘ウィラ(チェイス・インフィニティ)が誕生すると、状況は一変します。ボブの政府への闘争心は娘への愛情へと変わり、母ペルフィディアは娘への嫉妬に駆られるという、赤ん坊が生まれた後の一般的な家庭の力関係を逆転させたような構図がとても秀逸でした。
その後、ペルフィディアは因縁のロックジョーに逮捕され、司法取引に応じて仲間を売ることに。一方ボブは革命家を引退し、娘ウィラを一人で育てます。そしてウィラが成長した頃、物語は後半へ。反抗期の娘に手を焼くボブでしたが、再びロックジョーの魔手が迫ります。引退したはずのボブも、娘と自分を守るために再び銃を取る――まさに「One Battle After Another」。
一方ロックジョーは白人至上主義の秘密結社に迎え入れられ、有頂天になりますが、過去に“汚らわしい異人種”と関係を持ったのではという噂が浮上。その疑惑を払拭するため、ボブとペルフィディア、そしてウィラの一家を追跡し始めます。まさに邪悪そのもの。そして物語終盤、かつての三角関係の果てに、ウィラが実はロックジョーの娘であることが明らかに――驚愕の展開でした。
クライマックスでは、ボブ一派、ロックジョー率いる正規軍、白人至上主義者たちの秘密結社が入り乱れる大迫力の戦闘シーンが展開され、物語は壮絶な大団円を迎えます。ペルフィディアとウィラの母娘関係にもひとつの区切りがつき、静かな余韻を残してエンディングへ。
現代アメリカの病理をえぐり出しつつ、エンタメとしてのアクションも迫力満点。さらに父・母・娘それぞれの葛藤と愛情を見事に描ききり、非常に満足度の高い作品でした。
俳優陣も見応え十分。悪役ロックジョーを演じたショーン・ペンは圧巻で、恐ろしい風貌、異様な眼つき、白人至上主義者としての不気味な雰囲気――すべてが完璧でした。主役ボブを演じたレオナルド・ディカプリオも素晴らしく、「キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン」同様、どこか抜けた中年男を絶妙に演じていました。肝心のパスワードを忘れて窮地に陥る場面など、スーパーヒーローとは対極のアンチヒーロー像を体現しており、彼の真骨頂を改めて感じさせます。
また、直近で観た「ザ・ザ・コルダのフェニキア計画」で主演していたベニチオ・デル・トロが、ウィラに空手を教える師匠役で登場。今回も渋い存在感を放っていました。ウィラを演じたチェイス・インフィニティも、激しいアクションと母との再会シーンで見せた繊細な演技が印象的で、強く心に残りました。
そんな訳で、本作の評価は★4.6とします。
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