「苦悶俳優ジェレミー・アレン・ホワイト、魂の熱演熱唱から目も耳も心すらも離せない、逃げずに向き合うこと!」スプリングスティーン 孤独のハイウェイ とぽとぽさんの映画レビュー(感想・評価)
苦悶俳優ジェレミー・アレン・ホワイト、魂の熱演熱唱から目も耳も心すらも離せない、逃げずに向き合うこと!
名声とトラウマ、産みの苦しみと音へのこだわり、孤独な戦いとそばにいる人、そしてメンタルヘルスの問題…。「走るために生まれてきた」トランプ(根無し草)が振り返らずに走ってきた道を立ち止まって、自分が何処から走り始めた=何から逃げてきたのかを振り返る旅路は、悲痛なほど孤独でありながら同時にそばにいる人のことも思い出させてくれる
"親殺し"から始まる、寝室で一人(ぼっち)のような時間…。『バッドランズ/地獄の逃避行』からインスパイアされた内省的な傑作『ネブラスカ』の時期に絞った、この暗く重苦しい伝記映画は、スコット・クーパー監督らしさの中でWジェレミーが光っていた。2人一緒のシーンは全部好きだった。
罪の意識に苛まれて、世界とのつながりを失う。罪悪感を覚えて今にも消え入りそうなボスの不安定さ、傷ついた魂の叫びを体現。ニュージャージーの借家に入った瞬間、目も髪も暗くしたジェレミー・アレン・ホワイトがボスにしか見えなかった。吹替無しで全編自ら歌う歌声が、ボス本人にそっくりすぎた!!ボスの物語をニュージャージーから紡ぐうえで、比較的近いヴァージニア州出身で、アメリカの広大な大地や無骨さを感じさせる作風が特徴のスコット・クーパー監督というのも納得の人選だったし、そうした個性は本作でも生きていたと思う。
ケースは?代わりに手紙を。エコーをかけたカセットテープのデモは、完璧じゃないけどそれでいい、不完全でいい自身の音への強いこだわり。理想の音を死守する闘い、これが本当の"カセットテープ・ダイアリーズ"だ!ツアーもシングルカットもプレスも無し、ジャケットにも写らない。キャリアは絶好調、人気はうなぎ上りで、レーベルはいつまでも同じようなラジオでかかるヒットソングを求める中、自分の信じたもの"我"を貫いて、"勝利の方程式"を逸脱した仕切り直しの新しい出発。内面を掘り下げた新境地。
アーティストの葛藤、苦悩に満ちた創作。そんなアーティストの意思を尊重して、二人三脚で寄り添うように伴走して支える理想的なあるべきマネージャーの在り方を、ジェレミー・ストロングが好演する。時にはアーティストのために闘いもする、彼とその作品にはそれだけの価値があるから。同じ船(車・バイク)に乗って、同じものを見て、同じものを信じるように、時には自分もアーティストの選択に疑問を持っても、彼が信じたものを自分も信じ、同じ方を向く。
何処にもない場所、自分の居場所は、自分の中だけ。多忙を極め、周囲の雑音が煩い中で、信じられる本物を探すのは難しい。車に家、根無し草が自分のものを持つこと。だけど、どれもどこもしっくりこなくて、今にも消えてなくなりそう。他人の子どもとの関わりも描くことで、彼にとっての"父親"という存在と向き合う内省の旅。
名声やトラウマ、自身が抱える問題から逃げずに己と向き合うこと。怖いことを認めて対峙すること。大事なことから目を背け逃げてしまう遺伝子?『アイアン・クロー』に続きヘビーな実話モノで父親との関係に問題を抱え、『一流シェフのファミリーレストラン』に続き恋愛での幸せをぶち壊してしまう。(映画や主人公というのはそういうものだけど、眉の下がった困り顔からか)彼はどの作品を観てもいつも葛藤・苦悶している気がする。そういう本作でのボス役は、彼の演じてきたキャラクターの総体でもあるようだった。有名になるよりも、お金を稼ぐよりも、幸せになるよりも、偉大なアーティストになりたい。
「地元は離れがたいし、都会は嫌いだ」ジャブだ「オフもキツい」「ツアーが終わるとツラそうだ」「リアルなものを探すのは大変だ」人への希望と実際の姿は違う「暗い。罪悪感を覚える人たち」フォークアルバムを出すのか?俺なら別のアルバムに「ブルース・スプリングスティーンを信じる」「必要なサポートをすぐに手配する。バカなことをしないでくれ、すぐに掛け直すから」「大丈夫」助けと希望を失ったことはない
P.S. 自分が高校の頃に、「表現は命を削ってこそ」みたいな行き過ぎた本物志向に駆られていたことを思い出した。また、自分のこと年齢の割には(世代若めという意味)ここ日本でちゃんとボス聴いてきた方のファンだと思っていたけど、ボスが鬱病なことを知らなかった。ネルシャツ着たくなるね。
『狩人の夜』って子どもを殺そうとする話だからな、あの父と学校サボって観るの怖すぎ。違反切符から行方不明になった父親を探して、夜にはボーン・イン・ザ・USAをレコーディングして(鳥肌立った)、濃厚ヘビーすぎる1日…!Eストリートバンドの面々も似ている!!
・スコット・クーパーの監督デビュー作『クレイジー・ハート』は、実在の人物をモデルにしている。存命の人の伝記は許可などが面倒だったためフィクションにした。そして、作品が当たって、似たような音楽伝記映画の企画がたくさん来たけど断った(ex. エルヴィス、マイルス・デイヴィス、チェット・ベイカー、グレイトフル・デッド)。
・「音」そのものへのこだわり。エルヴィスからの影響「監獄ロック」→Q.エルヴィスの何が好きだったんですか?A."Everything."
「有名になるよりも、お金を稼ぐよりも、幸せになるよりも、偉大なアーティストになりたい」
・複数人物をまとめたガールフレンドのキャラクター(フェイ)以外はすべて実話。
・本作は元々Netflixで製作予定だったが、20世紀スタジオの社長が「これはうちで作る」と、ボス本人に直談判しに会いに行って、引っペ返した。
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ボス!ブルース・スプリングスティーンも、ジェレミー・アレン・ホワイトも本当に本当に大好き。
しかもメガホンを取ったのは、ボスの出身州ニュージャージーと近いバージニア州出身で、渋みと気骨のある作風が魅力的なスコット・クーパー監督。彼の監督作はすべて観ているけど、やはり音楽映画という点で『クレイジー・ハート』があるし、広大な自然や荒涼とした空気などアメリカーナな雰囲気はきっと本作でも大いに生きているはず。共演者もジェレミー・ストロング、スティーヴン・グレアムなど魅力的で、スプリングスティーンの伝記映画を満を持して製作する上で考えうる最高の布陣。
『名もなき者』ディラン役にシャラメをキャスティングは本当に完璧だと思ったけど、アレン・ホワイトがボス役も完璧すぎて、本作の企画を知ったときには武者震いした。20世紀スタジオから今年の最初と最後に音楽伝記映画を、今年楽しみにしていた音楽伝記映画2本!!現行のドラマシリーズで特にお気入りの『一流シェフのファミリーレストラン』に映画『アイアン・クロー』でも素晴らしかった。
人生トップレベルに大好き特別な大名曲Born To Runがニュージャージーから出る歌だとすると、『ザ・リバー』からの内省的な『ネブラスカ』期に自身の抱えてきた問題と向き合ったからこそ、『ボーン・イン・ザ・USA』でベトナム戦争の帰還兵を歌い、アメリカ全土が抱える問題と向き合うことができたのかもしれない。完璧じゃなくていい…心を修復する旅。俺達みたいな根無し草は走るために生まれてきたんだから!
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