「『ミーガン2.0』――AI的映画としてのハリウッド自己複製装置」M3GAN ミーガン 2.0 KAPARAPAさんの映画レビュー(感想・評価)
『ミーガン2.0』――AI的映画としてのハリウッド自己複製装置
前作『M3GAN』(2022)は、現代版『チャッキー』とも言えるAIドールによるサイコスリラーとして話題を呼んだ。だが続編『ミーガン2.0』が提示するのは、もはや恐怖ではない。本作が描くのは「AIの暴走」などという倫理的主題ではなく、ハリウッド映画そのものがAI的構造を持つという現象である。すなわち、既存フォーマットを再構成し、成功モデルを自己複製していく産業システムの可視化である。
物語の骨格は『ターミネーター2』の再演だ。かつて脅威であったAIが今回は守護者となり、より危険な新型機と対決する。前作のホラー要素はほぼ排され、アクション娯楽へと完全転換している。このジャンル変化を“裏切り”と捉えるのは誤りだろう。むしろ『エイリアン2』『ターミネーター2』以来、続編制作の常套手段として確立した「拡張と転調」のビジネスモデルがここでも忠実に踏襲されている。
注目すべきは、散りばめられたオマージュ群の「経済的機能」だ。『遊星からの物体X』のポスター、義手修理のシークエンス、センサー越しの追跡劇──これらは単なる引用ではなく、観客の記憶資産を流用する参照型の脚本設計である。観客が過去作品を想起することで理解コストが下がり、即座に“わかる”物語として消費される。つまり、『ミーガン2.0』はAIをテーマにしながら、制作そのものがAI的生成=データ再構成の手法を模倣しているのだ。
この意味で本作を「ご都合主義」と批判するのは筋違いである。むしろ、リアリティよりも反復構造に徹した潔さこそ、現代ハリウッドのドライヴそのものを示している。AIの暴走よりも速いのは、ヒットフォーマットを自己複製する映画産業の速度であり、『ミーガン2.0』はその現場報告書のような作品だ。
結論として、本作は“AI映画”ではなく“AI的映画”である。そこには思想的深みも倫理的緊張もない。だが、引用・模倣・拡張というプロセスを極限まで純化したこの作品は、ハリウッドという巨大生成装置の構造美を可視化する。批評の対象はミーガンというキャラクターではなく、それを生み出す装置=映画産業そのものに他ならない。
