「エモくなる」ラストシーン 津次郎さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0エモくなる

2025年5月18日
PCから投稿

YouTubeを見ていたらCMとしてこれが入ってそのまま見続けた感じ。なにが始まったのかと思って見ながら検索し、是枝裕和監督の新作短編映画で、iphone16proのキャンペーン作品であることを知った。

スマホで撮ったから、短編だからというのはなく、さすが是枝裕和監督の映画だった。

ただしソフトフォーカスに見えた。モニターが4K対応していないからか、自分が見た環境ではずっとデイヴィッドハミルトンみたいなもやを感じた。

この本編と同時に『iPhone 16 Proで撮影 | ラストシーンの舞台裏 | Apple』がApple Japanにアップロードされており、そこで是枝裕和監督が──

『テーマ的に言うと未来に何が残って何が消えるのかみたいなことをラブストーリーの中でやってみようかな、というのが最初のコンセプトでした。スーパーヒーローはさ、世界も救って家族も救うんだけど、本来両立し得ないものだったりもして、そうすると選択しなくちゃいけないんですよね、人って。そういう苦い話を書きたいなと思いました。』

と語っていて、じっさいにそういう映画になっていた。
日本映画の監督は、こんな映画やあんな映画をつくりたかったといっちょまえなことをいう割に、その通りに仕上がっている映画を見たことがない。
それに比べて是枝裕和監督はまさに言ったとおりのものができていて感心した。

すでにひっぱりだこな仲野太賀をさらにひっぱりだこにしそうな好演だった。軽さとエモ感が同居しており、吉野屋の北の国から編を見ている気分でいられるのに、胸を打つ表情にもなり、男らしく飄々としていてヌルッとした感じがない。
ヌルッとした感じ──とは良く言えば母性本能をくすぐる気配であり、謂わば池松壮亮からヌルみをとって明るさと濃さを足したのが仲野太賀だと思った。

日本ではいい俳優であっても監督がだめなのばかりなので結局浮かばれないのだが是枝組に入ったならば幸先がいい。鬼才系監督のしゃっちょこばった映画で頻繁に仲野太賀を見かけたが、いくらいい俳優を使っても技量がない監督がつくったら意味がない──ことが実証されるこけおどしのアートハウスばかりだった。
また、黒田大輔がうまかった。スパゲッティの食べ方もしゃべり方も、野卑で擦れっ枯らしで、ある程度いい加減なプロデューサー感が出ていた。

主題歌はVaundyによる書き下ろしだそうでコンセプトにも映像にもマッチしておりエモくなった。なんにせよ、さすが是枝裕和監督の映画だった。

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津次郎