「徹底的にストイックなヒーロー」コンスタンティン 永賀だいす樹さんの映画レビュー(感想・評価)
徹底的にストイックなヒーロー
キアヌ・リーブス演じる主人公ジョン・コンスタンティンは、人間界に潜む天界や魔界からの侵入者(ハーフ・ブリード)を見ることのできる能力を持つ。
さらに悪魔退治の腕も抜群で、タバコを吸い終わる前に片付けてしまう。
それだけなら救世主的ヒーローとして喝采を浴びるところが、襟元はだらしなく開き、ネクタイは風になびき、髪もぼさぼさ。キアヌじゃなかったら不潔の烙印が押されそうなキャラクター。
さらに15歳から1日30本の喫煙で余命1年のガン宣告を受けていて、しかも過去の自殺未遂により死後の世界は地獄行きが決定しているという救いのなさ。
仕事にしている悪魔退治も、死後の地獄行きをひっくり返そうと、自殺未遂のペナルティを帳消しするため躍起になっているだけという人間的にも救いのない利己主義者。
しかし利己主義ではあっても、人間に対する悪意のカタマリというわけではないコンスタンティンは、その能力と行動とで周囲の信頼を得ているという逆説的ヒーロー。
品行方正で誰が見ても否定しようのない正義の味方とは違ったヒーロー像こそ彼の魅力。
美人の女刑事が登場するも、最初から最後まで艶っぽい展開にいかない。利己主義なだけでなく人間嫌いなのかも。「アレ、行ってたら、行けたぜ?(byタマフル/ちょこっとラボ)」状態をスルーしているとあって、野郎の観客からすると心底腹の立つやつ。
ところが彼の行動を追ってくうち、観客は少しずつ応援したい気持ちになってくる。
自己チューなだけに悪魔退治まっしぐらでわき道にそれないし、能力的にも優秀だから回りくどくない。自然、映画としてもスムーズな展開で観ていて気持ちがいい。
必然の展開で世界観と事件背景と人間関係が差し出される。
主演がキアヌということを差っ引いても、ぐうの音も出ない。実に計算され尽くした映画だと思う。
計算高さでいうと、群衆に潜む怪物といい、現実世界と並行的に存在する地獄といい、ホラーに耽溺している人なら、映画で再現されたお馴染みの世界観にウットリくるのではなかろうか。
また十字架や聖句が悪魔退治のギミックとして使われるのはキリスト教世界ではよく見られるが、水が死につながるモチーフになっているというのはおもしろい。死出の渡し守カロンも川で現世と死後をつなぐし、日本神道では穢れを水で祓う。
こういう古典的要素を無視せず、しかしヒーロー像は逆転的に造形するという新しい要素の加え方が実にうまい。
少し調べてみると、カソリックにおける自死が大罰という戒律や、キリスト教的"献身"の究極型であるサクリファイス(Sacrifice/直訳だと自己犠牲)という概念などがからみ、あっちの世界では物議をかもした作品でもあったようだ。
その点、この日本ではあっけらかんと楽しむことができる。少なくとも熱心なキリスト教信者でなければ大丈夫だろう。
とはいうものの、最後のオチはちょっと納得いかない。
ひねくれているのはコンスタンティンその人だけでいいんじゃないかと思う。
もっとも、ラストでいい雰囲気になりつつ、でもコンスタンティンそのものだったエンディングは、ダークな世界を最後まで貫いててくれてうれしかった。
あそこまで徹底してくれたら、「アレ、行ってたら、行けたぜ?」などと言うほうが無粋だ。
では評価。
キャスティング:7(キアヌが主演のコンスタンティンでよかった)
ストーリー:7(もたつかず、短すぎず。オチだけ勘弁)
映像:8(人間界に潜む天使や悪魔、地獄の映像が秀逸)
モチーフ:6(知らなきゃスルーされてしまう要素がふんだんに盛り込まれていてよし)
ヒーロー像:7(お上品なヒーローと対極にあって、しかし正統なヒーローとして成立している)
というわけで総合評価は50満点中35点。
退魔モノが好きな人にオススメ。
おためごかしたヒーローに辟易している人には超オススメ。