「もう少し前半がサクッと進んでくれた方が良かったし、声のせいで恋愛がヤバくなる展開があっても良かったと思う」マーヴィーラン 伝説の勇者 Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
もう少し前半がサクッと進んでくれた方が良かったし、声のせいで恋愛がヤバくなる展開があっても良かったと思う
2025.7.15 字幕 MOVIX京都
2023年のインド映画(161分、PG12)
「謎の声」に悩まされる漫画家を描いたヒューマンドラマ
監督&脚本はマードン・アシュヴィン
原題は『Maaveeran』で「伝説の勇者」、タミル語タイトルは『மாவீரன்』で「主人公」という意味
物語の舞台は、インドのタミル・ナードゥ州のヴァンナラペッタイ
そこにあるスラム街に住んでいる漫画家のサティヤ(シバカールティケーヤン)は、新聞の隅に連載されている漫画を描き続けていた
だが、強欲な編集者タナラス(Minor Yogi)は別人の名前で署名し、サティヤの名前が世に知られることはなかった
サティヤには厳格な母イーシュワリ(サリダー)と大学に通う妹ラージ(Monisha Blessy)がいて、近隣住民のデーヴァレーシャン(Dileepan)の娘・イラワラシ(Vaninavashri)らとともに仲良く暮らしていた
ある日のこと、突然スラム街の撤去が強行され、サティヤたちは州が指定する集合住宅「人民宮殿」に移住することになった
イーシュワリは頑なに拒むものの、ホームレスになるかどちらかだと立ち退きの請負業者ダンラジ(Madhan Kumar Dhakshinamoorthy)は譲らない
地元の議員のパグティ(Palani Murugan)は州首相(Balaji Sakthivel)に駒のように扱われ、地域住民を説得するしかなかった
その後、仕方なく人民宮殿に移住した彼らだったが、当初は立派な作りのマンションに喜びを隠せない買った
だが、壁はすぐに剥がれ、まともな施工がされていないことがわかる
抗議を行なっても「嫌なら出て行け」と言われるだけで、サティヤは「慣れるしかない」と諦め、イーシュワリはそんな息子の弱腰な態度に痺れを切らしていた
物語は、3分の1が終わった頃に、サティヤの言動にブチ切れたイーシュワリが「死んでくれた方がマシ」とまで言われてしまうところから動き出す
漫画も取り上げられ、生きる希望を見失っていたサティヤは自殺未遂をするものの、寸前で思い留まった
だが、脆い建物の影響で屋上から放り出されたサティヤは、補修用の足場に落下してしまう
タミル人の修繕人・クマール(ヨーギ・バーブ)に助けられたサティヤだったが、病院に着いた途端に心肺停止状態になってそのまま亡くなってしまう
しかし、その数秒後、サティヤは心肺蘇生法をすることもなく突然起き上がり、なぜか生き返ってしまった
家族たちは安堵の表情を浮かべるものの、その時からサティヤには「謎の声(ヴィジャイ・セードゥパティ)」が聞こえるようになっていた
眠ることも許されず、ノイローゼになったサティヤは、色んな医師に診てもらったり、祈祷師にお祓いをしてもらうものの、どれも効果が無いまま、月日だけが過ぎていった
ある日のこと、人民宮殿に選挙を控えた開発大臣のジャヤコディ(ミシュキン)がやってきた
スラム街の立て直しで求心力を強めていたが、その演説の場において、サティヤは自分の靴を大臣に投げつけてしまった
それは「謎の声」の予言通りになった瞬間だったが、それによって、大臣に目をつけられ、サティヤの運命は大きく歪んでしまうのである
映画は、社会派っぽい流れを汲みつつも、アクションは控えめとなっていて、「謎の声」にいう通りに動くという一風変わったアクションになっていた
踊りも控えめで、「謎の声」が登場するまでが驚くぐらい長い
しかも、不要に思えるエピソードが多く、ニラー(アディティ・シャンカル)も賑やかし程度にしかなっていなかった
恋愛要素を取り入れているものの、ほとんど進展しないし、気持ちの確認もし合わないので、編集部で漫画を描くきっかけを作ってくれた以上のことがなかったりする
物語は、母親との軋轢がメインとなっていて、心にも無いこと言ってしまった故の後悔などが強調され、それでも弱さから逃れられないサティヤが描かれていく
彼が声を失ってから覚醒する件があるのだが、どうやら勇者との同化が行われたようで、顔つきや動きが洗練されていくのはすごいなあと思う
それでも、無双シーンが少なめなので、カタルシスはやや低めと言った印象だった
いずれにせよ、悪役がひたすら悪役というのも良くて、彼自身も声に悩まされていたというのは面白い対比だった
ジャヤコディをプロデュースした秘書パラム(スニール)の存在が大きく、それゆえにジャヤコディの蛮行のシーンが衝撃的に思えた
ラストの倒壊に至るまでお約束のような脱出劇は涙腺崩壊ものだが、あれで無傷なのは勇者が乗り移ったからなのだろうか
全部が漫画でしたというものではないと思うものの、なんともまあご都合主義満載のシナリオだったなあと思った