劇場公開日 2025年8月1日

「まるでゲームをプレイしているかのような感覚を覚えるホラー」アンティル・ドーン 緋里阿 純さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5まるでゲームをプレイしているかのような感覚を覚えるホラー

2025年8月6日
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鑑賞方法:映画館

楽しい

驚く

【イントロダクション】
ソニー・コンピュータエンタテインメント(当時)による、2015年のPlayStation4用ホラー・アドベンチャー・ゲーム『UNTIL DAWN -惨劇の山荘-』を基に、映画オリジナルストーリーで実写映画化。
失踪した姉の行方を追って、森の中の「観光案内所」にやって来た妹・クローバーと仲間達が、惨劇に巻き込まれていく姿を描く。
監督は、『アナベル 死霊人形の誕生』(2017)、『シャザム!』シリーズのデヴィッド・F・サンドバーグ。脚本に、『アナベル』シリーズ、『IT/イット “それ”が見えたら、終わり』2部作のゲイリー・ドーベルマン。その他脚本にブレア・バトラー。

【ストーリー】
1年前に失踪した姉のメラニー(マイア・ミッチェル)の行方を追って、妹のクローバー(エラ・ルービン)は元カレのマックス(マイケル・チミノ)、友人のニーナ(オデッサ・アジオン)、霊感持ちのミーガン(ユ・ジヨン)、ニーナの彼氏・エイブ(ベルモント・カメリ)らと共に、メラニーの捜索とクローバー心の傷を癒す旅をしていた。

彼らは、ある森の中で嵐に遭い、長い道をひたすら真っ直ぐ進んでいた。すると、突如円形状に雨の全く降っていない不思議な空間に辿り着く。その場にある「観光案内所」と看板の建てられた山荘に入ってみると、来客名簿にメラニーの名前を発見。不思議な事に、他の来客者含め、この山荘に訪れた人は、名簿に複数回自身の名前を記帳しており、回数を重ねる事に字体が崩れていっていた。時を同じくして、エイブは2階にあるボードに掲示された夥しい量の行方不明者の捜索願いを発見。

すると、彼らは突如現れた覆面の殺人鬼によって惨殺されてしまう。しかし、ふと気付くと、全員が殺される前の時刻に戻っていた。その後も様々な死因によって命を落としては、時間が巻き戻っては生き返りを繰り返す事になる。

クローバー達は、死を繰り返す中で謎を解き、夜明けまで生き残る道を模索する事になる。

【感想】
私はゲーム未プレイ、作品タイトルを聞いた事はある程度の認識での鑑賞。

若者達が事件に巻き込まれるまでの流れがスムーズでテンポ良く、事態を理解するのも早いので、ストレスなく地獄のループにライド出来る。全体としては、まるでゲームのマルチエンディングのように、様々なバッドエンドを順番に体験して、最後にトゥルーエンドを目撃したかのような感覚を覚えた。

途中、シルエットのみ登場するクリーチャー等、一瞬しか映らない敵キャラと思われる存在が出てきたり、突拍子のない設定が提示される様子は、「そこはゲームをプレイして、色々確認して楽しんでね」という事なのだろうと推測した。
とはいえ、ゲーム版について調べてみると、映画化に際して大幅に内容は変更されている様子で、要は「考えるな、感じろ」という大味な作品という事だろうか。また、せっかくゲーム的な設定なのだから、メンバーで残機を計算して作戦を立てたりと、幾らでも膨らませられる要素はあったはずなので、もっと活かして魅せてほしかった。フィクションとして嘘を吐くにしても、もっと整合性を取って“らしく”見せる事も出来た部分も多かったように感じたので、色々と勿体無いなと感じた。

特に突拍子の無かったのは、建物内にバリケードを作って立て篭もった夜。バスルームに隠れたクローバーらは、喉の渇きから水道水を回し飲みする。すると、1番最初に水を飲んだエイブの身体が内側から爆発。他のメンバーも次々と死亡していく。その突拍子のなさと景気の良い死に様は、まさに“爆死”という表現が相応しく、ゴア描写満載ながらシュールな笑いを生み出しており印象的だった。

恐らく、ゲーム版と共通している作品の根幹部分は、“精神疾患”という部分なのだろうと思った。鬱状態による精神疾患を背景にし、希死念慮や破滅願望といったマイナス思考に形を与えた存在が、“ウェンディゴ”という怪物に変化するのだろうと解釈した。というか、肝心な部分の大部分は観客の判断に委ねられているので、ある程度自由に解釈しても構わないかもしれない。

「1度きりだから人生は輝く」という主張は月並みではあるが、何度も同じ日の夜を繰り返して死に続けなければならない本作の設定ならば、妥当な主張ではある。

ラストは全員無事に脱出してめでたしめでたし(オチはあるが)というのも、後味良く好感が持てた。ウェンディゴに変化しつつあった彼らがどうなっているのかは分からないが。

クローバー役のエラ・ルービンが美しく、惨劇に巻き込まれる中で次第に逞しく成長していく姿が良かった。黒幕のドクター・ヒルに惨劇世界の水を含んだコーヒーを飲ませて爆死させるという倒し方も、ここまで馬鹿馬鹿しく来ればいっそ爽快ですらあった。

【総評】
まるでゲームをプレイしているかのような感覚を覚える、不思議な映画体験だった。
決して傑作とは言えない、物語としての作りの荒さはあるが、気軽にゴア描写やホラー演出を堪能出来る佳作としての魅力は十分にあったように思う。

緋里阿 純
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