「結局、常識を守ってる奴には未来はない」大長編 タローマン 万博大爆発 基本的に映画館でしか鑑賞しませんさんの映画レビュー(感想・評価)
結局、常識を守ってる奴には未来はない
始まりから終わりまで、徹底してバカバカしい。巨大な着ぐるみが暴れ回り、唐突に歌が挟まり、奇獣たちは意味不明な造形で「なんだこれは」と観客を振り回す。だが鑑賞後に残るのは単なる笑いではなく、岡本太郎の言葉と思想がじわりと腑に落ちていく不思議な感覚だ。
岡本太郎は「芸術は呪術である」と言った。芸術は美の飾りではなく、人の心を直接揺さぶり、世界の見え方を変えてしまう力を持つ。だから彼にとって芸術とは、理屈ではなく爆発であり、常識を壊す「でたらめ」の力だった。本作『大長編 タローマン 万博大爆発』は、その呪術的な作用を現代の観客に体験させる装置として機能している。
物語は1970年大阪万博と、そこから見た未来=2025年を重ね合わせて描く。万博は当時、科学と人類の進歩の祭典であり、同時に「でたらめ」の集合体だった。太陽の塔が象徴するのは、理解不能であるがゆえに人を圧倒する創造の力だ。映画に登場する奇獣もまた、理屈を超えた「でたらめ」の存在であり、観客に「なんだこれは」と叫ばせるための呪具である。
そしてタローマン自身の行動も、秩序立った防衛作戦や合理的思考を突き破る「でたらめ」そのものだ。未来を救うのは計算や計画ではなく、予測不可能な逸脱の力である。科学も芸術も社会の変革も、歴史を振り返れば常識破りの「でたらめ」からしか生まれていない。地動説も印象派も民主主義も、最初は世界から「なんだこれは」と嘲笑された。
観客はこの映画を観ているうちに、自らの常識を崩される体験をする。冗長だと感じる人もいるだろう。意味がわからないと戸惑う人もいる。しかし、その「わからなさ」「でたらめさ」こそが岡本太郎の真意であり、観終わった後に妙な感動として残る。バカバカしさを笑い飛ばすだけではなく、我々自身が秩序に安住しすぎてはいないかと突きつけられる。
結局、「なんだこれは」とは困惑ではなく、感動であり驚嘆であり、言葉にできない感情の爆発である。この映画は観客一人ひとりにその体験を強制する。そう考えれば、本作はただの怪作でも奇作でもなく、岡本太郎が生涯をかけて伝えた「でたらめに生きろ」というメッセージを最もわかりやすく体感させる、呪術的な芸術なのだ。
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