「今期ここまで最も観にきてよかった映画だな」カーテンコールの灯 ONIさんの映画レビュー(感想・評価)
今期ここまで最も観にきてよかった映画だな
エンディングにそっとGhostlightの文字が出てきた時、原題を知らずに見ていたのでタイミング含め、なるほど、と思った。それ含めての全体設計がうまかった。
冒頭からしばらくはイカれた娘の素行がかわいらしいアメリカのインディペンデントコメディのようにも見えるが話が進むとまさかの展開。おっさんの仕事の工事現場と街の素人演劇の練習場が近いところからはじまる心の傷を持ったおやじとシェイクスピア劇のケミストリー。それが日本っぽい(大泉洋がでてきそうな)泣けますよ、的なわざとらしい大芝居ではなく、ささやかに、丁寧に設計されていてとてもいい。とにかくキャスティングと芝居の生な感じがとてもいい。お父さんのグッと堪える感じもいいし、奥さんの衣装や髪型、リアルな佇まいもすばらしい。最初ボーッとみていた花壇の喧嘩のシーンも後で(ラストで映る)見えた時にはそういうことだったのか、と胸が締め付けられる。中盤の「演劇やってる」のがバレるところがコメディ的にも面白いが、その直後の娘のカラオケのシーンがほんといい。途中、一瞬「ありがとうトニエルドマン」を思い出したりもしたが、あれもカラオケのシーンがほんとよかった。カラオケのシーンがいい映画は傑作になりがち。で、この映画もそう。クライマックスではさもない街の市民演劇のおっさんとおばさんの『ロミオとジュリエット』の公演が高校を借りて行われるだけなのだが、稲光はするは、静謐感もただ事ではない。高校での上演らしいトイレ休憩の様もいいが、これだけ深みのある『ロミオとジュリエット』があるだろうか、というくらいに手を握って成功を願わずにはいられない。そしてラストの夜明けにこの原題の意味が、本当に灯がともるように浮かび上がる。素晴らしい映画だった。