「この映画は、黒田先生の残したいベートーヴェン&シンドラー像だったということなのだろう」ベートーヴェン捏造 Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
この映画は、黒田先生の残したいベートーヴェン&シンドラー像だったということなのだろう
2025.9.18 一部字幕 MOVIX京都
2025年の日本映画(115分、G)
原作はかげはら史帆のノンフィクション『ベートーヴェン捏造 名プロデューサーは嘘をつく』
ベートーヴェンの誤ったイメージを流布した元秘書のシンドラーを描いた伝記映画
監督は関和亮
脚本はバカリズム
物語は、現代に日本のどこかの中学校にて、生徒の野村(柊木陽太)が音楽教師の黒田(山田裕貴)と、「ベートヴェンはどんな人だったか」という会話が紡がれて始まる
黒田は、野村のイメージするベートーヴェンは彼の死後に改竄されたものだとし、その顛末を語っていく
時代は遡ること1822年12月のオーストリア・ウィーン
ヴァイオリニストのシンドラー(山田裕貴)は、ある劇場のサロンにて、憧れの作曲家ベートーヴェン(古田新太)に出会うことになった
彼の言葉を無視するベートーヴェンだったが、ふと「耳が悪い」という噂を思い出す
そこで筆談にてコンタクトを取ることになったシンドラーは、話の流れからベートーヴェンの秘書をすることになった
シンドラーは耳の聞こえないベートヴェンに献身的に尽くす一方で、あるイメージを崩さない戦略を行なっていく
会うべき人物を勝手に選定し、その堅苦しさはやがてベートーヴェンそのもののイメージとなってしまう
堅苦しさに嫌気を指したベートーヴェンは、パリ公演のその夜、金を盗んだと嫌疑をかけて、彼を追い出してしまった
その後秘書の座にはホルツ(神尾楓珠)という若い男が付くものの、彼は自身の結婚を理由にあっさりと距離を置いてしまう
そして、病魔に倒れた彼の元に、再びシンドラーが現れるのである
映画は、全編スタジオ撮影で背景は安いCGという感じで、全てのキャラを日本人キャストが演じている
それ自体にはそこまで違和感を感じないのだが、CGに関してはアニメの背景のような感じで、合成している感が凄かった
メッセージもわかりやすいもので、現代パートとの二重構造になっていた
それは、過去パートでは「シンドラーがベートーヴェンを捏造した」のだが、現代パートでは「黒田先生がシンドラーを捏造している」ように思わせている
そして、野村はそれを看過していて、「歴史に残るものは、聞き手の残したいものが伝わって残っていく」ということを伝えているのである
結局のところ、真実に関しては当事者しかわからないもので、ベートーヴェンに関しては「各音楽家が自分と絡めた論文」「シンドラーによる伝記」「ホルツによる伝記」などがたくさん存在する
そのどれが本当の姿かはわからないのだが、作曲家である以上、残された楽曲が全てのように思う
偉人のみならず、故人で商売をするというのは天罰レベルの罪であり、いくら脚色しようとも、作品以外のことには無関心なものなのだろう
素晴らしい作品を残す人間が人間性まで素晴らしいという方が稀有なものであり、それを知る現代人からすれば、「信じたいものを信じたら良いのでは」で終わってしまうのかもしれません
いずれにせよ、もっとコメディ寄りかと思っていたら、意外と真面目な伝記映画だったなあという印象があった
ふざけるようなところもなく、そう言った部分は配役で遊んでいたのかなと思うレベルで、メッセージ性を全面に出した作品だったと思う
それでも野村が黒田にはっきりと言ってしまうことで目的が明瞭化している部分があったので、そこはぼかしつつ「野村が別の生徒に違うベートーヴェン像を話す」という連鎖を描いた方が良かったのだろう
語り手は「自分がどう思われたいかを意識して話す」という部分があるので、黒田はシンドラーに寄り添ったけど、野村はそうではなかった、という対比にした方がインパクトがあったように思えた
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