「音楽の伝道師のような中学の音楽教師に語らせるメタ構造が絶妙 ベートーヴェンの残した音楽へのリスペクトも忘れておらず なかなかの良作」ベートーヴェン捏造 Freddie3vさんの映画レビュー(感想・評価)
音楽の伝道師のような中学の音楽教師に語らせるメタ構造が絶妙 ベートーヴェンの残した音楽へのリスペクトも忘れておらず なかなかの良作
「ベートーヴェン」「捏造」という二つの単語を聞いて思い出したのは10年ちょっと前のある事件です。NHKのある番組で、耳が聞こえぬ作曲家、日本のベートーヴェンの奇跡の旋律、みたいな紹介をされた作曲家がいました。けっこうな反響を呼び、私もタワーレコードに彼のCDを試聴しに行ったぐらいです(でも、これだったら、ホンモノのベートーヴェンのほうがはるかにいいよな、といったレベルではありましたが)。で、その後、実は彼にはゴーストライターの作曲家がおり、多少の障がいはあるものの耳が聞こえないのも嘘だったことも判明して、彼の名声は一気に地に堕ちたわけです。これこそ、正真正銘の捏造です。
さて、この作品の原作「ベートーヴェン捏造 名プロデューサーは嘘をつく」は未読ですが、作者の かげはら史帆さんがラジオ番組の特集でアントン•シンドラーについて語っているのを聴いたことがあります。ベートーヴェンに関する最新の研究で、シンドラーがこの大作曲家のイメージ作りに大きく貢献していることが分かってきた、ということでした。交響曲の出だしの🎵ジャジャジャジャーンの意味を尋ねられたベートーヴェンが「運命はこのようにして扉をたたくのだ」と答えたという逸話はシンドラーの捏造とのことです。でも、これってけっこう見事なキャッチコピーじゃないですか。この「捏造」によって、ルートヴィヒ•ヴァン•ベートーヴェンの交響曲第5番ハ短調 作品67は “交響曲「運命」” になったわけですから。英雄とかカリスマとか言われている人の人生にはこういった捏造エピソードがいろいろあると思います。まあでも、シンドラーさんの場合は、貴重な歴史的資料を改竄してまで計画的に捏造を実行した確信犯で、しかも本人に頼まれたわけでもなく個人的に熱狂的に崇拝してたからそうした、ということなので、後世の研究者からしてみれば興味津々のお話で、200年以上たってから、遠い東洋の異国で映画のネタにされるのもむべなるかな、といったところでしょうか。
さて、この作品はそのタイトルやポスター•ビジュアルからすると、え? といった感じで、ある中学校の教室風景からスタートします。で、生徒のうちのひとりの男の子が忘れ物に気がついて行った音楽室で音楽教師(山田裕貴)に呼び止められ、ベートーヴェン談義が始まります。そこから、200年ほど前のベートーヴェンの時代に入って、その音楽教師がベートーヴェンの秘書だったアントン•シンドラー、中学の校長先生(古田新太)がベートーヴェンに扮し、その他のキャストを中学の先生たちが演じるという設定にしてあって、なるほどこれなら200年ほど前の西洋人を日本人が演じてもよいかなと妙に納得してしまいました。クセ強めのキャストが出てきて19世紀の西洋人を大マジメに演じるのはなかなかの見ものでもあります。
この作品で脚本を担当したバカリズムに関してですが、TVドラマの『ブラッシュアップライフ』や『ホットスポット』を観て、その達者ぶりに感服することしきりだったのですが、この映画でも、さすがだと思いました。なんか、TV、映画というメディアのそれぞれの特性を理解した上でアプローチの仕方を使いわけてるのかなとも感じ、あらためて才能のある人だなと感じ入った次第です。
私は高校生の頃にロマン•ロランの「ベートーヴェンの生涯」を読みましたし、「不滅の恋人」とか呼ばれている ベートーヴェンの宛先不明のラヴレターにていての本も読んだこともあります。もしや、と思ってwiki の「不滅の恋人」の頁でチェックしてみたのですが、くだんの「明らかに送られなかった手紙」は彼の死後、持ち物の中から発見され、アントン•シンドラーが手元に置いていた…とのことで、ここでアントン•シンドラーの名前を見つけてドキリとしました。でも、この手紙はベートーヴェン本人の直筆だと思われているようで、今では宛先の女性もほぼ特定されているとのことです。シンドラーさん、捏造ばかりではなく、後世のベートーヴェン研究に貢献もされてるんですね。
まあシンドラーさんだけでなく、上に挙げたロマン•ロランさんなんかもベートーヴェンのイメージ作りには貢献しているわけで、日本人でこういった例はないかと考えていたら、坂本龍馬のことが頭に浮かびました。幕末を語る上で欠かせない人物なのですが、歴史の教科書にはほぼ登場しません。薩長同盟は龍馬がいなくても成立してたのではないかとも言われてますし、彼が起草したとされる「船中八策」も明治以降に彼の伝記を作るために創作されたとする説が有力だとのことです。でも、彼には、まずは彼についての小説を書き、彼がいかに魅力的な人物かを伝えてくれた作家の司馬遼太郎という、言わば名プロデューサーの存在があり、その後には、NHKの大河ドラマを始めとする数々のドラマがあって、歴史上、特に有名な人物になっていったわけです。ましてや音楽史に燦然と輝く業績を残した大作曲家の場合をや……
ベートーヴェンの場合は、この映画を観た後もサントラを聴いてみたりすると、やはりさすがだなと映画の余韻に浸れます。残したものが偉大過ぎてまあシンドラーの気持ちもわからんわけでもない、本人がたとえ手がにゅるっとした小汚いおやじでもその音楽を聴けば、ははーっ、参りました、となるもんな、といったところでしょうか。
ということで、この映画は、ベートーヴェンの音楽へのリスペクトは忘れてないと思うし、歴史研究の面白さも見せてくれる良作だと思います。
共感ありがとうございました。正真正銘の捏造者、居ましたね、○○○ごうち、忘れていました。私、あの人がNHKで紹介された後で、某主婦雑誌の新年特大号の付録のCDにその曲が入っているという理由で(曲を気に入ったわけでもないのに)その雑誌を買ってしまいました。まんまと騙された?というよりミーハーですね。改めて聞いたら、あまり特徴のない曲でした。
でもフィギュアスケートに使用された名曲集だったので、他の曲は良かったです。
今晩は^ ^
レビューにイイネ有難う御座います☆
ベートーヴェンは大作曲家ですね、クラッシックは勉強不足で正式名は分かりませんが第九や運命を大音量で聴くとやはりゾクゾクして凄いなと思います(^^)
共感ありがとうございます!
バカリズム脚本なんで、もっとコミカルかと思っていましたが、予想以上に真面目な作品でした。シンドラーの一人語りの部分が中弛みして退屈だったので、生徒と先生の面白いやり取りの部分を説明パートにして度々挿入したら、更にいい作品になったと思いました。





