「自由な日」罪人たち なつ F列さんの映画レビュー(感想・評価)
自由な日
濃厚〜
情報量多い〜
音楽が胸を叩きつける〜
と、かなり嬉しいしんどさ。
黒人差別が激しい時代、プランテーションの綿毛を摘む人々、禁酒、白人用トイレ。
そんな時代に双子のスモークとスタックはシカゴのカポネに入り何やらやらかして大枚を叩き酒とダンスを楽しめる酒場を作り自分達の自由を得る為に行動を始める。
まず、行動が早い。
朝に建物を買い、二手に分かれて看板や料理、人材集めを行い夜にはオープンである。
行動力!
スタックが1人また1人とメンバーを増やすくだりはワクワクしたし、収容所の話を音声で表現したのがより生々しい。
その初日に青年サミーはギターでブルースを奏でるという形で双子の叔父たちと行動を共にする。
サミーはギタリストを夢見ていたが厳格な神父である父の反対で叶わぬ願いであった為、嬉しいお誘いだ。
人間関係や愛情のもつれや恋の始まりなどのドラマも細々と描かれるので物語もどんどん肉厚になっていく。
ボー夫婦に声をかけた時に妻に伝言を娘に託す過程を長回しで見せて、あぁ中華系だから中央に店を構えているのかなと。
そんなふうに所々に長回しや音のタイミングでの切り替えなどが多用されるので、どきりとするシーンも多い。
一方、夕焼けの中大怪我をした1人の男が一軒の家の夫婦の元に逃げ込んでくる。
金貨をチラつかされ匿われるも追ってきた原住民になんだか不穏な事を言われる。
なんか雲行きが変わってきたぞ…
オープンした店は満員で大盛り上がり。
しかし、現金のない人も入れてしまうので初日から経営方針の対立。
流れるピアノ、かき鳴らすギターとサミーの歌声、皆のリズムと足踏み。
ブルースとはこういうものだ!と分からせてくれる。
ソウルフルというやつか…音楽には詳しくないのだけど、とにかくすごい事だけは分かるので、ただ圧倒。
…あれ?なんか変なやつが隣にいない?って思ったらカラフルな衣装とギターの持ち主が背中合わせで弾いている。なんだか未来的。古典楽器の様なものを弾く人、ターンテーブルが回りDJがリズムを刻みラップが始まる。
コンテンポラリーダンス、中華系、ボンゴ、現在過去未来、様々なジャンルの音楽人種がサミーの元へ集まり踊り歌い続ける。ここの長回しはトリハダものである。
サミーの歌声に合わせぐるぐるぐるりと沢山の音楽とそれを楽しむ人々。カメラは再びサミーに戻り、彼の歌声は夜空へ燃え上がりその炎は格子を破り彼らは差別のない自由となる。
そんな中、3人の影が立つ。
3人は愉快にバンジョーを鳴らして中に入れろと。
あ!レットミーインだ!
そこでこの作品はホラーだった事を思い出す。
それくらい前半のストーリーが濃密だったのだ。
吸血鬼対決が盛り上がるか心配なくらい。
しかし、吸血鬼ものとしてもきちんと作られていて1人また1人と吸血鬼化。
先に逃した客も一様に吸血鬼化されてしまい、その悪魔を中心にダンスを踊る光景はゾッとした。
サミーを差し出す要求するも未来ある若者を守る大人たちにジンとくる。
吸血鬼といってもチューチュー吸うのではなくガブリなので集団に男がやられる様はゾンビを彷彿とさせる。
吸血鬼化したスタックと対抗するスモーク。2人の胸に揃いのペンダントが映る。
戦いの間、互いを必要としつつもどちらかが勝たねばならぬ状況で「守ってやれてすまない」「いつも守ってもらった」と決着をつける2人。妻の手製のお守りで弟が噛みつけないのも良い。妻もあなたを守ったよ!
冒頭に戻り壊れたギターを持ち教会に戻るサミー。
固く固く握り締める手。
まだまだ続くよ、次はKKK。
ちょこっと出ただけかと思ってたが、まさかガチで出るとは。いろいろと分からないけどとにかくすごい武器を持ちスモークは無双。妻のお守りをちぎり、兄弟の揃いのペンダントを巻きつける。
腹に一発致命傷を受け、妻と子供に出会い終える。この演出は本当に素晴らしく途中で遮られた時に邪魔するなって思った。ほらー、ちょっとアニーが嫌な顔したじゃん。
大人達に守られたサミーの未来。
彼は壊れたギターを手放さず、プランテーションの一本道を1人走り去る。
老いたサミーはシカゴで成功し、夢を叶えていた。
演奏するその歌声は聴こえない。
謎の2人組が…
スタックとメアリーじゃん!めちゃくちゃ俗世にハマってるじゃん!エンジョイしてる!ウェーイ!
スモークは弟を手にかけることはできなかった。
しかし、サミーには手を出さないという約束もきっちり守るあたり、双子の絆だなと思う。
あの日、車の横で初めて聴いたあの歌。あの時の驚いた顔。サミーの生の歌声が響く。
あぁ、だから最初の演奏シーンは歌がなかったのか。
レコードでもテープでもない生の声、大人達に守られ努力し叶えた彼の歌声はスタックの前で披露される。
サミーの音楽をずっと聴いていたというのもそれが発端だとも思うが、叔父としても見守ってると思うとにっこり。
別れ際にはハグ。
最後に語るのはあの日のこと。
思い出しては辛くなるが、あの日が最高で自由だったこと、そしてスモークがいた事。それは人種が異なってしまっても2人の大切な思い。
3人で一本道を車で走る。
前には双子の叔父さん、荷台にはギターを抱くサミー。
綿毛の畑を抜ける道を青空のもと自由へと走った車。かけがえのない3人で。それは自由であり幸福。
不意打ち号泣のラストでした。
エンドロール中の余韻がすごく音楽もとても良いので浸っていたら、若いサミーが教会で歌う映像まで出るとかサービス精神旺盛。
1本で1粒も2粒も美味しく、豪華おまけもついてるよ!な仕上がり作品。
あと、いろいろな作品のオマージュ多くてこちらもニッコり。
ほんとに情報量多くて考察のやり甲斐のある作品なのだろうけど自分の教養の無さにがっかりだよ。