「天才監督現る! 既存の物語に収束しない独自さが素晴らしい。」見はらし世代 ふくすけさんの映画レビュー(感想・評価)
天才監督現る! 既存の物語に収束しない独自さが素晴らしい。
初(父:ハジメ)が蓮と偶然に再開して(最初互いに顔を見ただけ、翌日の再開)、蓮は父に「わかってないな」と毒づく。
しかし父はいったいあの状況で何が言えたのだろう。
そして、蓮は、父がどのような態度をとれば納得できたのだろう。
蓮はその後、車の中で泣きじゃくる。タクヤはそばで泣き顔を見てしまうが、何が起こっているかわからず、そっと知らないふりをする。
ポイントは蓮自身、自分の感情を説明できないだろう点だ。
(このタクヤが全編よい味を出している。)
対して、恵美(娘)は
「蓮はなんとなくお父さんが反省して、できればもう一度家族三人でとか、そういうことを期待しているのかもしれない。でもね、もうそういう、現状を無理に変えようとか、いわゆる向き合うとか、そういうの私には必要ないの」
「私もう昔のこといいの」
このあたりのセリフはいかにも既存の物語にありそうな内容だ。
このいかにもの達観が「見はらし世代」と感じた。
さらに、
「私だけが前向いてて何か悪いみたいじゃん」
とくる。
姉の恵美のセリフはまるで安手のカウンセラーのセリフを自分で構築して、なんとか自分を保っているように見える。
弟の蓮は「ていうか、こっちが前だよ」と答える。
この蓮のセリフ一つでこの映画は稀代の名画となった。
息子と父の心のありようは、私たちが持っている物語のどこにも収束しない。
一言で要約できない。
この微妙で複雑なこころのありようは、ハリウッドの対極にある。
父は、死んだ母の幻影(父も、姉も、弟もはっきりと認識しているが、母には夫(父)しか見えていない)を送った後、「すまない」と一言のあと、泣き崩れる。
息子が泣いたように。
蓮が黄色のポーチを注意してもやめない。
33000円の胡蝶蘭の花を一輪切り捨て880円がこれだという。
自動販売機で缶コーヒーを買うシーンが繰り返される。
この空気感の演出はずば抜けている。
初(遠藤憲一)は自分の理想の為に家族を捨てるわけだが、そこに葛藤がある。
蓮も簡単に父を恨むことができない。
世に、ひどい父親像はいくらでもある。
それに比べて初は現代的なポリコレの中にいる。
渋谷というどんどん汚いものをきれいなもので覆い隠す舞台背景が秀逸である。
最後にLUUPに乗った4人の若者が登場し蕎麦の話などする。
これは唐突であった。
Offical Bookを参照しないではわからなかったのが残念。
最後の女性は「奈月」。蓮が解雇されたとき、こんなところで働けませんといきなりやめた女性だ。
蓮の何かをこれから補完する象徴なのだろうが、さすがにこれは分からない。(これで星半個減点)
時間の前後する物語はついていくのが大変だが、車載テレビの、何度付け替えても落ちてくる照明の話で、場面の時間を切り替える手法は面白い。(大成功とはいいがたいが…)
団塚唯我 1998年生まれ。27歳
脚本と監督。
天才現る!! ブラボー!
見逃さないでよかった。
コメントありがとうございました。
最後のLUUPのシーンはやはり謎でした。
「奈月」の存在も全く気付きませんでした。
見落とした箇所が他にもあるように思えてきましたが、それにしても非常に興味深い作品でした。
「さよなら ほやマン」、見逃していたので機会があれば見てみたいと思います。

 
  


 
 