「現場あるあるは面白い」最強のファン 蛇足軒妖瀬布さんの映画レビュー(感想・評価)
現場あるあるは面白い
一般的な劇映画の構造から逸脱した異色の作品である。
登場人物たちの造形と、
映画製作の現場における「人間」への並々ならぬこだわりは、
よく考えられている。
ラナ、ポリーといった主要人物はもちろん、
各監督、共演者、そして助監督、
一人ひとりのキャラクター設定がうまく作り込まれている。
それは単なる役割ではなく、
その人物が持つであろう個性、
バックグラウンド、
そして現場での立ち振る舞いにまで血肉が通っているかのような説得力がある。
さらに、撮影、美術、衣裳、録音といった各部署のスタッフたちの、
「現場での佇まい」や「服装」といった細部へのこだわりも素晴らしい。
彼らの動き、視線、
そして何気ない会話の断片が、
映画製作という営みのリアリティを描き出している。
煌びやかな完成品だけではなく、
その裏側にある泥臭くも情熱的なプロセスそのものへの敬意を示しているかのようだ。
また、スレート(カチンコ)を入れるシーンで、
シーンナンバー、カットナンバー、
そして珍しくトラックナンバーまで全てが記入されていた。
多くの作品でトラックナンバーが省略されがちな「あるある」を踏まえると、映画製作という作業そのものへのフェティシズム、
ポリーのキャラの説得力も増すとも取れる。
しかし、これらの魅力的な要素が揃っているにもかかわらず、
「それらのキャラをうまくつなげるシナリオが機能していない」
「というよりもストーリーがほぼない」という点は、
本作に言及する上で避けて通れない最大の課題だろう。
各キャラクターは生き生きとしているのに、
彼らが織りなすべき物語の縦糸がほとんど存在しない。
エピソードは唐突に始まり、
明確な結末を迎えることなく次の場面へ移行していく。
それは、劇中で監督が文字通りスクリプトを焼き捨てるシーンが象徴するように、本作自体が意図的に、
あるいは結果的に、物語を放棄したかのような印象を与える。
本作にはおおまかなプロットのみで、
三幕あるいは四幕といった物語構造が見られない。
その代わりに存在する「グルーブ感」は、
俳優たちの即興、そしてスタッフたちの息遣いといった、
映画製作のライブ感を優先した結果生まれたものなのかもしれない、
そんなこともないか・・・
それはある種のドキュメンタリーのような生々しさを生み出す一方で、物語的な牽引力を著しく弱め、観客を混乱、あるいは退屈、または配信であれば〈離脱〉させてしまうリスクを伴う。
ただし、現場あるある的には一見の価値はある。