「アナログからの反撃」DROP ドロップ つとみさんの映画レビュー(感想・評価)
アナログからの反撃
気づけばクリストファー・ランドン監督の作品を観るのも4本目である。
「笑えるホラー」の帝王とでも言うべき監督だが、今回は笑いの要素はなし。どちらかと言えばヒューマンドラマに重きを置いたサスペンス作品に仕上がっている。
半径15メートルの距離で絶えず自分を監視している謎の犯人からの脅迫を受け、初デートの相手を殺さねばならない状況に追い込まれていく主人公・バイオレット。
巻き込まれ型サスペンスの王道とも言うべき脚本の中で、バイオレットという人物のバックグラウンドがちゃんと描かれて、なおかつダラダラ長くないところが良い。
ストーリーを転がす為に必要なパートと、バイオレットの心情や過去を開示するパートが同時に成立するように、巧みに計算された脚本は流石の一言。
前半に登場する小道具や過去の体験が、後半まるっと回収されていく様も小気味良い。
サスペンスのネタを長々説明するのは無粋なので最小限に留めるが、デジタルツールを駆使してバイオレットを追い詰める犯人が、「ベテランバーテンダーの目」というアナログな視点を見落としていたことで反撃される、というプロットが秀逸である。
アプリやネットワークの発達で、色々なことが効率的になった現代だけど、人間そのものの複雑さが失われたわけじゃない。
他人に「見られる」ことを意識したデジタル世界の中ではわからない、実際のやり取りが持つ情報の豊かさは今でも健在で、それは実際に相手を見て、話を聞いて、そして自分の磨いてきた感覚で察知するものなのだ。
ラストシーンでバイオレットがとてもリラックスしてヘンリーを見舞うシーン、高層階のファインダイニングとは程遠いテイクアウトのファストフードでも、2人は幸せそうである。
お互いがどんな人物か、本当の意味でわかりあえて一緒に小さな希望に向かって歩み出すようで、心温まる印象的なエンディングだったと思う。
「ハッピー・デス・デイ2U」ほどの盛り上がりはなかったが、単なるサスペンスとは一線を画す秀逸な脚本と、計算によってスリルを盛り上げる映像のコラボレーションが素晴らしい。
今後も作品が楽しみな監督の1人だ。
