「情報が人を殺す。社会が作り上げる“でっちあげ”の恐怖。」でっちあげ 殺人教師と呼ばれた男 シネマ紳士さんの映画レビュー(感想・評価)
情報が人を殺す。社会が作り上げる“でっちあげ”の恐怖。
単なる「事件の映画化」ではない。
情報の拡散が人を追い詰め、命さえ奪いかねない社会の構造や、職業的な正義と個人の尊厳がぶつかり合う瞬間を描いた、静かでありながら重みのある人間ドラマだった。
構成は章立てで、視点が切り替わるたびに視点が揺れることで「どちらが真実か分からない」という心理の追体験になる。
その不確かさこそが、この作品の持つ怖さであり、メディアや世間の“見方”がいかに人を決めつけ、消費していくのかを問いかけてくる。
綾野剛は、感情を抑えつつも徐々に心を削られていく教師の姿を丁寧に演じていて、目線ひとつで観る側の胸を締めつける。
柴咲コウもまた、激情と冷静さを行き来する繊細な芝居で、観客の判断を揺さぶってくる。
二人の対峙は、派手な演出はなくとも十分にスリリングだった。
そして、光石研の存在感が忘れられない。
出番は限られているが、彼の沈黙と表情には、言葉以上の重みがあり、何度も心をえぐられた。
この映画が描こうとしているのは、真実よりも「人は何を信じるのか」という問いなのかもしれない。
• 世界へ入り込む度:★★★★☆
• 感情ゆさぶられ度:★★★★★
• エネルギー消費度:★★★★★
• 配信でも観ます度:★★★★☆
• 人にすすめたい度:★★★★☆
【制作エピソード】
薮下がマスコミの報道により極限まで追い詰められ、雨の中で傘も差さずに鳴海の胸ぐらを掴み、感情を爆発させながら自らの思いを訴えるシーン。実はこのシーンは人工的に雨降らしを行っているのではなく、なんと本物の豪雨だった。テスト段階では晴天だった天候が本番直前で急に雲行きが怪しくなると、あっという間に強い雨が降りだしたという。
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