「「児童=声を上げられない被害者」という先入観があったかも」でっちあげ 殺人教師と呼ばれた男 かばこさんの映画レビュー(感想・評価)
「児童=声を上げられない被害者」という先入観があったかも
実話が元になっており、最終的に教師の言い分が認められたのは知っていたが、気が重くて観る気になれず、でも綾野剛を買っているので義務のように観に行きました。
さすが三池監督、掴みから見せる。
なんという最低な教師、と見せておいて、でもタイトル「でっちあげ」だった、と思い出した。法廷劇にして双方の言い分を再現映像のように見せていくのも上手い作りだ。
薮下先生はちょっと気が弱そうで強く言えないところはあるが、それでもしっかり「私はやっていない」と言い続けている。にもかかわらず、「この場を収めるため」と言われて謝罪をしてしまう。してもいないのに謝罪は最悪手だ。
でも、校長や教頭にあれだけ圧力をかけられて逆らえる教師はいるんだろうか。
そして保守的な組織ではありがちな事なかれ主義で自分たちが命じておきながら手のひら返すのはさもありなん。
冤罪は、やっていないことをやったと自白させることで出来上がる。
なので、どんな圧力があろうと、やっていないことはそう言い通すのが自分を守る術だと強く思った。
長野サリン事件で犯人と決めつけられた河野さん一家は、一貫してやっていないという態度を取り続けたことで冤罪を免れた。
校長、無事に定年退職しちゃって、後から法廷で詰められてしどろもどろで少し溜飲が下がった。
氷室一家は余裕で「脅迫」しているのに被害届を出すより言いなりになるほうを選ぶ学校現場。少し前に実の親に殺された野田市の児童虐待殺人事件を思い出した。学校、という組織では、この事件から10年以上たった時点でも同じような過ちを犯していたのだと思った。
ごく平穏に暮らしているのに、青天の霹靂でこんな災難に見舞われる。
いつ我が身に降りかかってきてもおかしくないのが恐ろしい。
身に覚えがないことをでっちあげられ、あれよあれよと大悪人に仕立て上げられる怖さに息が詰まりそう。マスコミに決めつけられたら個人の声はどこにも届かないという絶望感を、薮下先生と一緒に私も味わっていた。妻と一人息子がバッシングされるシーンがなくてよかった。あったら最後まで観ていられなかったかも。
氷室一家はいったい何がしたかったんだろうか
特に律子は、すべて嘘だというのは自分が一番よくわかっていながら、裁判まで起こす考えが分からない。脅すのが得意そうな一家なので、力で周囲を言いなりにできる自信があったのだろうか、現に証言を抑え込んでいたし、マスコミも味方につけており、気が大きくなって勝って大金ゲットできると踏んだのか。
実際の事件では、一方的に児童側の話だけを信じた報道の記事に疑問を呈して独自取材した報道機関がいくつかあり、実際にクラスの児童に聞きこんで、この教師による暴力の現場を見たものが皆無なのを調べ出すなどしており、少しほっとした。
綾野剛の演技力が圧巻。律子の供述のなかでの血も凍りそうな暴力教師とその後の本人としての薮下のふり幅がすごい。そして長い間の苦悩と気持ちの揺れをそれぞれの場面で演じ分ける。教育委員会の、処分取り消しの報を聞いた時の表情は、一緒に涙が出そうだった。
木村文乃の妻も好演。夫がそんなことするはずないと確信を持ち深刻になりすぎず、時には夫のケツを叩いて一緒にがんばる心強い味方なので陰々滅々とした雰囲気にならず救われた。処分取り消しが確定する前に亡くなっていたのか。
小林薫の、あのひょうひょうとして動じないがベテランらしく抜け目なさそうなところ、クライアントに心から寄り添うところ、弁護士として抜群の安定感で、500人の弁護団よりも頼もしかった。
そして、柴咲コウが、めちゃめちゃ怖い!
精神科医の判定や判断がいい加減なのが衝撃的。
昭和の時代に子供だった人ならわかると思うが、昭和には理不尽にハラスメントする教師は普通にいた。気分次第で拷問もどきの体罰をする、暴言吐いたり、大勢の前で児童を笑いものにしたり、特定の子供に嫌がらせしたり、変態は露見すればさすがに問題になったが、密室の暴君としか言えないような教師が堂々と存在した。そういう記憶がある人たちには、教師への経験的な不信感があり、児童寄りに偏った報道を自分の経験に照らして一気に信じ込んでしまう傾向があるのではないか。
被害者の言い分だけで裏付けもないにも関わらず暴走記事を書き続けた雑誌記者も、時代的に子供のころから暴君教師を見てきて、「教師=暴君」「児童=もの言えない被害者」という先入観にとらわれていたかもしれない。もしくは自身が被害に遭って、その恨みを知らず知らずにぶつけていたかも、などと思ってしまった。
コメントありがとうございました!裁判までされたんですね…お辛い経験でしたね。言ってもないやってもないことを認めることほど悪手は確かにありませんね。私は教員ではありませんが、割と保守的な組織働いているので、確かに謝罪せよ!とかあるあるやなあなんて思ってみてました。氷室一家は、本当に自分たちの言っていることが事実だと思っているのかなと思ってしまいました。そこが本当に恐ろしいです。
共感ありがとうございます!
綾野剛も柴咲コウも演技の幅が物凄く広くて、この作品にぴったりのキャストでしたね。小林薫の人情弁護士も良い味を出していて心に響きました。
最近よく第三者委員会と言われますが、学校とか外部から入って来るのを嫌がりますよね。出来もせんのに自分たちで何とかしようとするのは悪手ですが、どこで方針転換するかも重要と思いました。
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