ブルーボーイ事件 : 特集
鑑賞後、あなたは“幸せ”の本当の意味を知る。
日本で実際に起きた衝撃事件を映画化…“未来”を諦め
なかった人々の“実話”が魂を貫く、希望の物語

 鑑賞後、筆者(映画.com編集部員)の心には、そんな思いが燃えていた。こんなに
 その作品とは、

 
 壮絶なドラマに、切実な祈りが込められた本作について、全力で語っていきたい。
●【最初に結論】
心が震えた。こんなにも“幸せ”を切実に願う映画に、久々に出合った。“今、この瞬間”に絶対に観るべきで、そして人生に影響する“名作”!

予告編を見てほしい。そして、劇場へ向かってみてほしい。
 物語の衝撃と素晴らしさ、セリフの力強さ、キャストの熱演、製作陣の覚悟の凄まじさ、そしてラストシーン――詳細は後述するが、どれもこれも
自分の幸せを掴もうともがき、戦う人々の姿に、とんでもなく心が震え、溢れる涙を止められなかった。

 鑑賞後も感情がおさえきれず、主人公や、あらゆる人々の幸せをただただ祈っていた。そうして「ブルーボーイ事件」は、
 次の項目からは、
●【衝撃的かつ重要な物語】
実際に起きた「ブルーボーイ事件」 東京五輪、大阪万博が開催される日本で、“性別適合手術は違法か?”を争った世紀の裁判

 
 
当時、警察は街の国際化に伴う売春の取り締まりを強化していたが、性別適合手術を受けた「ブルーボーイ」と呼ばれる人々の存在に頭を悩ませていた。戸籍は男性のまま女性として売春をする彼女たちは、現行の売春防止法では摘発対象にならない。
 そこで警察は、生殖を不能にする手術が「優生保護法」に違反するとして、
 ある日、赤城医師のもとで性別適合手術を受けたサチのもとに、弁護士・狩野がやってきて、

 本編鑑賞中、
 この裁判で「性別適合手術は違法」と判決が出ることは、「今後、日本での性別適合手術は不可能になる」ことを意味していた。マイノリティの人々の“状況”が大きく変化し、今の日本へとつながる

 だからこそ物語展開に手に汗握り、「いい映画を観ている」充足感に浸り、
 さて、判決は果たして……加えて1960年代当時が、東京五輪や大阪万博の開催、そして物価高騰など、現在の日本とシンクロする状況であることも見逃せない。そうしたさまざまな理由とともに、本作は映画の枠をこえた“重要な余韻”を与えてくれる、
●【“魂に響く”名ゼリフ】
「なんも隠さずに、素直に生きられたら素敵だと思わない?」 言葉を思い出しただけで、涙が溢れる

しかしながら、本作は“ただ衝撃的”なだけではなかった。
 主人公・サチが、弁護士の狩野が、そして周囲の人々が、この裁判で“戦う”ことを選んだのはなぜか? それは、トランスジェンダーであるサチたちにとって、今まさに絶たれようとする性別適合手術が、
 もっとも大事なことは、サチたちが痛みを抱えながらも未来を切り開いていくその姿に、鑑賞中ずっと、涙が溢れて止まらないことだ。そして本編を観始めると、練り上げられた脚本とキャストの熱演から生まれる、
そんなセリフを“みてもらう”ことで、最も本作を観たくなると思うので、印象的だったものを以下でご紹介したい。



 時に絞り出すように、時に叫びとなって放たれる、
登場人物の誰もが、自分のためだけではなく、仲間たち、そしてまだ見ぬ人々の未来にまで思いを寄せていることが伝わってくる名文ばかりだ。
 いまこうしてこの文章を書きながら思い出すだけで、
●【熱演にもまた、涙が止まらない】
自身もトランスジェンダー女性で、演技未経験ながら難役に挑んだ主演・中川未悠が、“主演女優賞”級の存在感

 なかでも、自身もトランスジェンダー女性というアイデンティティをもち、演技未経験ながら難役に挑んだサチ役の
恋人とのささやかな幸せを噛み締め、ひっそりと暮らしていたサチ。当初は平穏な日常を壊しかねない裁判への出廷を迷っていたが、ある事件をきっかけに、勇気を振り絞って証言台に立つことを決意する。
 マイノリティへの差別が横行していた当時にあって、「幸せを追いかける」という人間として当然のことをしているだけなのに、世間の好奇の目に晒され、容赦なく傷付けられる

 中川が、控えめな佇まいのなかで、そうした感情のグラデーションを滲ませ、サチ自身の変化を力強く、スクリーンに刻みこむ。検事の侮辱的な言葉や傍聴人の嘲笑に晒され、不安げに腕をさすりながらも、必死で響かせる声。
 
 さらには、事件と真正面から向き合う狩野役に

 メガホンをとったのは、トランスジェンダー男性であるという自身のアイデンティティを反映した作品づくりで知られる飯塚花笑監督。7年の歳月をかけた本作では、
 ゆえに日本映画界を変えうる可能性をも秘めた作品でもあり、
●【ラストシーンは、生涯忘れられそうにない】
「あなたは今、幸せですか?」 結末を見届ける“私たち”全員に投げかけられる問い “決断と言葉”に、自分らしく生きる勇気が、沸々と湧き上がる

 そして物語は、
 終盤の裁判のなかで、裁判官がサチに

 そして「あなたは今、幸せですか?」という言葉は、結末を見届ける観客の“私たち”全員に投げかけられているような感覚にもなった。誰もが生きづらさを抱える時代にあるからこそ、このシンプルな問い、そしてサチが出した答えが、
 混沌とした世界のなかでも、
 やがて訪れるラストシーン。私は生涯、忘れないだろう。戦いに挑んだ手応えが滲んでいるかのような、尊くて愛おしいその表情が、




