「その証言は抵抗の叫び」ブルーボーイ事件 ジュン一さんの映画レビュー(感想・評価)
その証言は抵抗の叫び
どこの国でも同じようなことをするのだなぁ、と
思う。
国家的行事に際して、公共インフラの整備と共に風俗の浄化を。
お隣の韓国や中国でも、各五輪前の「浄化作戦」は新聞報道もされていた。
日本では1964年の「東京五輪」、
1970年の「大阪万博」の時か。
本作は「性転換手術」を行った医師が、
1965年に「麻薬取締法」と「優生保護法」違反で逮捕された
実際の事件を基にしている。
女性の街娼は「売春防止法」で逮捕できても、
男性の街娼はそれができない。
ならば、産み出す側の医師を見せしめにして元栓を締めれば、
これ以上増えることはないだろうとの、
いかにも国家権力が考えそうな理屈。
「自分たちに都合の良い正義のためなら何だってやる」姿勢は
今でも変わってはいない。
実際に「優生保護法第二十八条」を読むと、
この条文で当該医師を起訴するのは相当に牽強付会。
検事の『時田(安井順平)』は、
上からの命により動くのだが、
論拠の薄い個人的な信念をぶつけているだけで、
その思想や背景はかなり歪んでいる。
もっとも、こうした家族観や国家観はいまだに蔓延っている。
一方、弁護する側の『狩野(錦戸亮)』も間違った方向性を採る。
「性転換手術」は「精神的欠陥」に対処するための治療との論法だが、
中途からその誤りに気付き方針転換したところから、
以降の法廷論争は滅法面白くなる。
「憲法十三条」を持ち出すのは慧眼だ。
とは言え、瑕疵の多い作品なのは否めない。
法廷での場面も、とりわけ前段はすきま風が吹いているように熱気に欠ける。
主役の『サチ(中川未悠)』を巡るエピソードも散発的で、
人となりを深めるには役立っていない。
わけても、出演者の多くに実際の「トランスジェンダー」を起用していることは凶と出た。
中には『中村中』のように嵌っている人物もいるのだが、
それ以外は高校生の学芸会も同然で、
とてもではないが金を出し観に来てくださいのレベルにはなっておらず。
制作サイドはリアルや当事者意識を優先したのだろうが、
鑑賞者からすれば、物語り世界に入り込めない恨みが
ずるずると後を引く。
なまじ証言台に立った主人公が
人間の尊厳にかかわる発言をするだけに
残念さが先に立つ。
〔エミリア・ペレス(2024年)〕で
主人公を演じた『カルラ・ソフィア・ガスコン』の域にまで達していれば、
文句の付けようはないのだが。
セピアに寄せた色調を含め、
昭和的なモノの再現に心を砕いていることは評価。
冒頭の「日活」オープニングの画像から、
一気に往時に引き戻される構成は見事。
細かい点にまで神経は行き届いており、
中でも主人公が取り出す青系の色味の古い裁縫箱には、
おぉ~っと感嘆の声を上げた。
映画チケットがいつでも1,500円!
詳細は遷移先をご確認ください。
