「マストロヤンニの演ずるロマーノのことは、よく理解できた。」黒い瞳 4K修復ロングバージョン 詠み人知らずさんの映画レビュー(感想・評価)
マストロヤンニの演ずるロマーノのことは、よく理解できた。
87年、ロシア人の名監督ニキータ・ミハルコフを招聘し、舞台を20世紀の初頭に設定して作製されたイタリア映画。
イタリアの田舎町で生まれたロマーノ(マルチェロ・マストロヤンニ)は、大学に進んで建築家を目指していたが、大学で知り合ったローマの銀行家の一人娘エルザと結婚する。義父が亡くなって妻が銀行を引き継いで後、義母をはじめ親族にまともに扱ってもらったことはなく、豪邸での道化を思わせる暮らしで、娘を一人得たものの、夫婦仲は冷え切っていた。
銀行が危機を迎えているのに、無聊を慰めるため、一人トスカーナの温泉保養地に出かけたロマーノは、ロシアから来ていた「犬を連れている貴婦人」と知り合い、恋に落ちる。ロシアに残してきた夫への罪悪感に苛まれ、女性はロシア語で書かれた恋文を残して立ち去る。ロマーノは女性を追ってロシアを訪ね、愛を誓うが、帰国すると---。
何よりも、映画「ひまわり(1970年)」を思い出した。先の大戦後、東方戦線に出征したまま帰らぬ夫のイタリア兵士(マストロヤンニ)を探して、最愛の妻、ソフィア・ローレンがウクライナの地を彷徨う。戦後初めてソ連が許したロケで得られた映像が圧巻だった。
この映画では、ロマーノがロシアから帰国した時、銀行が破産し、豪邸も管財人の管理下で売却される光景を目にすると、妻エルザに何も言えなくなるのも予想できた。だって、彼の存在は、完全にエルザに依存している。エルザが破綻すれば、ツケを払うのはロマーノの方だ。夏の間、ブルジョアだけが(娼婦はいるが)集う温泉保養地に行けるのもエルザの財力があってのことだし、ロシアを旅するのだって、娘婿のマンリオの出資だろう。結婚後25年間、何をしてきたのか問われるロマーノの葛藤と哀感を見事に演じたのがマストロヤンニであり、これでカンヌの男優賞に輝き、アカデミーの男優賞にもノミネートされたのだと思う。
こうした筋立ては、ロシアでの出来事があってから8年ほどして、アテネを経てイタリアに向かう客船のレストランで、ロマーノとイタリア語も堪能な初老のロシア人商人との会話で示される。新婚旅行の途上だった商人のお相手が誰であったかは、映画を観ている人たちには、想像が付いたに違いない。その頃、エルザは、米国にいた親族の遺産が転がり込んできて、銀行も邸宅も買い戻していた。ただし、その時、ロマーリオが何をしていたのかは、映画を見てのお楽しみ。