劇場公開日 2025年5月30日

「時を経るごとに美しくなるアンナ」黒い瞳 4K修復ロングバージョン talismanさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5時を経るごとに美しくなるアンナ

2025年6月4日
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鑑賞方法:映画館

笑える

驚く

ドキドキ

イタリアの上流階級の邸宅でのパーティー場面は豪奢そのもの。衣装、アクセサリー、緑溢れる広大な庭、沢山の執事やらメイド、ゴージャスな革張りの車椅子。そんな中で居場所がないのか、そういう奴なのか、ひたすらおちゃらけているロマーノ(マストロヤンニ)は、銀行家の娘と結婚して25年たっても未だ姑から陰で文句を言われている。妻エリザ(マンガーノ)にも呆れられているロマーノは浮気男でもある。このあたりの描写は笑えるが長く感じられて最後まで見ることができるか不安になった。

金持ち向けの湯治場へ赴いたロマーノは、ロシアの貴婦人、アンナと出会う。足が不自由で(嘘)という彼に腕を貸すアンナ。彼女は若くて華奢で笑うのが好きでちょっと憂鬱な風情で小犬を連れている。彼女に恋したロマーノはアンナとついに心を通わせた。が、枕を涙で濡らし涙を拭った指で壁に痕をつけたアンナは、手紙を残してロシアへ帰る。ローマに戻った彼はロシア語で書かれたその手紙を訳してもらう。恋文だった。俄然、生きる意味を見い出したロマーノはアンナに会うためロシアへ!

ロシア到着後は、役所や書類のたらい回しが続きこれはカフカか?と思い、ようやくアンナが居る筈の小さな田舎町に到着したら村をあげての大歓迎(「この村に来た初めての外国人さん!」)これは「8 1/2」か?工場を建てる建築家という触れ込みで来たロマーノだから村は嬉しい、一方でイタリアに2年留学していた学生からは、工場はこの村に建てないでくれと懇願される;工業化による自然破壊の問題と未来を憂う学生の訴えから、チェーホフの『ワーニャおじさん』を思い出した。ロシアの美しい自然に溜め息が出た。

効果的に繰り返されるモチーフ:キラキラ光る紅茶カップ、複数のコップを載せたトレーを手で不安定に運ぶ場面、帽子が風に吹かれて飛ぶ、名前が何度も言及されるアンナの小犬「サバーチカ」、ロマの人々の歌と踊りと色鮮やかな衣装、母親の子守歌。枠内物語のすっとぼけたマストロヤンニ、枠部分はクルーズ船内のレストラン;ハネムーン中の男性が
話すイタリア語のロシア語なまりに惹かれて、彼一人を相手にロマーノは自分の来し方を語る。素晴らしい枠構造の映画、最後まで見ることができて満足した。

映画の終わり方が公開時と異なるらしいが、初見なのでどちらがいいかなどの判断はできない。言えるのは、コメディに徹するマストロヤンニを押し出していて、物悲しくても空っぽでも、決断できなくても、人生は生きて行かなくては、というメッセージが込められているようだった。最後に映されるアンナの美しさに息を呑んだ。

talisman
あんちゃんさんのコメント
2025年6月11日

コメントありがとうごさいます。私にとってのマストロヤンニはドヌーブとくっついたり離れたりしていた頃、作品で言うと「モン・パリ」のあたりとなります。当時既に50歳近かったのですが実に伊達男だったですね。

あんちゃん